りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ザ・ロード(コーマック・マッカーシー)

イメージ 1

すべての美しい馬で全米批評家協会賞と全米図書賞をダブル受賞した著者の新作です。前作『血と暴力の国』で「絶対悪」を象徴するかのようなシュガーという存在を作り上げ、「世界は悪い方向に向かっている」と嘆いた著者は、ついに文明を滅ぼしてしまいました。

何か大きな力によって破壊されてしまい、空は雲で地上は灰で覆われ、鳥も獣もいなくなった地を、名前すら明かされない父親と幼い息子が、ショッピングカートにわずかな荷物を積んで、少しでも暖かい南の海を目指して歩き続けます。2人が通過する廃墟と化した街はすべて略奪しつくされていて、秘匿されていた缶詰や生活物資を探し出して飢えをしのぎつつ歩く中で、時折出会う人間は既に人間性を失い食人鬼と化している救いようのない世界。

父親にとって少年は光であり、彼の言う「火を運ぶ」とは少年を生き延びさせることなのでしょう。少年を守るために自らを犠牲にする覚悟もあり、場合によっては殺人さえもいとわない父親ですが、決して超人ではありません。飢えと疲労で日々弱っていきながらも、彼自身、純粋な少年の言葉に励まされて気力を振り絞るのです。

本書の一番の読ませどころは、父親と少年の会話です。破滅の後に生まれ、以前の文明世界のことを知らず、普通なら希望など持ちようがないはずの少年にかつての「善き」世界のことを伝えようとする父親の愛情に、「僕たちは『善い者』でいようね」と応える少年の会話に込められているさまざまな思いが、胸を打つのです。

前作血と暴力の国は映画「ノーカントリー」としてアカデミー賞作品賞を受賞していますが、本書もヴィゴ・モーデンセン主演で映画化が決定しています。原作が持っている哲学的で宗教的な雰囲気を伝えてくれる映画に仕上がっているでしょうか・・。

2008/7/28読了