りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

言葉の守り人(ホルヘ・ミゲル・ココム・ペッチ)

f:id:wakiabc:20201122133656j:plain

マヤ語で書かれ、マヤ神話の呪術的世界観に根差し、実在のマヤの森を舞台にした本書は、言葉をめぐる物語であると同時に、少年の成長譚にもなっています。「マヤ文明ファンタジー」と定義される作品ですが、自然崇拝・動物崇拝・言葉が持つ呪術的力など、日本の原始神道との共通点も多いようですが、やはり独自の世界観です。

 

小説というよりも詩に近いリズミカルな物語は、主人公の少年がおじいさんに呼ばれて、マヤの伝承の語り手である「言葉の守り人」に選ばれる場面から始まります。少年はおじいさんとともに、ある時は現実の世界で、ある時は夢幻的な世界を旅して、風や鳥や夢などの秘密を伺い知り、自分の本当の名前を手に入れるのです。

 

自分の本当の名前とは、自分の中に世界を形作っている神羅万象を位置づけて、さらに自分自身をその中に位置づけていくことにほかなりません。ではその世界とは、古代マヤ世界なのか、西洋文明に浸食された現代のメキシコなのか。どうやら本書を読み解くカギはそのあたりにありそうです。少年はあらためて学んだ古代マヤの知識を、現実の現代世界の中で位置づけていかなけらばならないのですから。

 

少年に求められた「言葉の守り人」とは歴々と続いてきた伝承者ではありません。これまでの誰もやらなかったこと、すなわち「お話を覚えて文字にする」をいう役割を担うことになるのです。その意味では、本書を著した著者が、物語に登場する少年だったのかもしれません。

 

2020/12