りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2008/6 四月馬鹿(ヨシップ・ノヴァコヴィッチ)

『暗号解読』とか『世界の測量』といったノンフィクション系の本は読み応えがあるけれど、荒唐無稽なフィクションのおもしろさだってなかなかのもの。

クロアチアの運命を悲喜劇的に一身に体現してしまったイヴァンの物語だって(四月馬鹿)、インドのパイ少年が体験した、不思議で宗教的な漂流物語だって(パイの物語)、めちゃくちゃなアナキストの父親に振り回される家族の物語だって(サウス・バウンド)、どれも、小説を読む楽しさを堪能させてくれました。でも次点にした『アムステルダム』は、先月読んだ『贖罪』と比べると、インパクトに欠けたかな。

1.四月馬鹿 (ヨシップ・ノヴァコヴィッチ)
4月1日のエイプリル・フールに生まれたヨシップの人生は、母親が出生届を1日遅れて出してくれたにもかかわらず、運命に嘲弄されてしまったかのようです。旧ユーゴの中で体制派だったのに政治犯とされ、クロアチア人なのに徴兵されて母国と戦うハメに・・。彼の人生は、旧ユーゴが目指した「民族共生の儚い夢」への鎮魂歌なのでしょうか。

2.パイの物語 (ヤン・マーテル)
信仰心に篤いインドのパイ少年が体験した、不思議で宗教的な漂流物語。ベンガルトラと、シマウマと、オランウータンと、ハイエナと一緒に、同じ救命ボートに乗り込み、トラに襲われる恐怖と戦いながら、200日を越える漂流を生き延びた少年。ところが、この物語には「別バージョン」もあったのです・・。

3.サウス・バウンド (奥田英朗)
もと過激派の闘士で現在は心情的アナキストの、トリックスター的な父親が、ある日突然宣言します。「じゃあ、国民や~めた」。家族が東京から移り住んだ西表島も、決して楽園ではありません。リゾートホテル建設を巡って、父親の反抗心は燃え上がります。でもこれは自然保護のためではなく自分のため。読んでいて楽しい作品でした。

4.暗号解読 (サイモン・シン)
戦争とともに発展した暗号と、暗号解読の歴史を、興味深いエピソードを交えて、わかりやすく説明してくれた本でした。番外編ともいえる古代文字解読物語も、現在のネット社会を支える公開鍵と素数分解の仕組みも、将来の量子暗号までもカバーした内容は素晴らしい。これを読むと、ちょっとした「暗号通」にもなれますよ。^^

5.世界の測量 ガウスとフンボルトの物語 (ダニエル・ケールマン)
19世紀初頭のドイツで、世界を理解するために知の地平を拡大した、2人の天才の物語。1人は磁力の単位に名を残す数学者ガウスで、もう1人は海流やペンギンにもその名がついた冒険家のフンボルト。2人の人生は、ほんのわずか交差しただけなのですが、互いを理解者と思ったはず・・というのが著者の視点。晩年の2人の老いた姿には「西欧の没落」の予兆すら感じてしまいます。



2008/6/30