りぼんの読書ノート

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競売ナンバー49の叫び(トマス・ピンチョン)

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平凡な若妻エディパは、突然、かつての恋人であったカリフォルニアの大富豪ピアスの遺言で、遺産処理の執行人に指定されたことを知ります。弁護士の力を借りて遺産を調べ始めたエディパが見出すのは、遺産に含まれる大量の切手コレクションと、不可解なメッセージの群れ。

郵便ラッパのマーク、WASTEという暗号、残酷な古典劇「急使の悲劇」、速度の異なる分子を仕分けして熱力学の第二法則を覆すマックスウェルの悪魔。それらは皆、謎の闇郵便組織「トライステロ」の存在を指し示すのですが・・。

「トライステロ」とは、神聖ローマ帝国のトゥルン&タクシス家の郵便組織に対抗して組織されたものの、アウステルリッツの戦いを契機にパトロンを失い、アナキストの通信のみを担うようになったあげく、アメリカに渡ったものの、合衆国政府の私設郵便取りつぶしに逢って西部を目指したと言われる組織。果たして「トライステロ」は現在のカリフォルニアに実在するのでしょうか。そして偽造切手の「ロット49」の競売に現れるのは誰なのでしょう。

とまぁ、こんなストーリーなのですが、例によって一筋縄ではいきません。物語は何度も本筋から脱線し、全てが偶然なのか妄想なのか悪い冗談なのかも判然としなくなる中で、「私設郵便」の意味が多義的になっていくのです。

エディパの執行する遺産が「アメリカそのもの」なのかもしれず、エディパは相続執行人であるだけでなく遺産相続人であるとも読める箇所があります。では「私設郵便」は反権力精神の象徴であり、そこから遠く隔たってしまった現在のアメリカ政府を民衆の手に取り戻せと主張したいのか?それとも、それは将来のインターネット社会の到来を予言していたのか・・。やはり、答えは読者の数だけありそうです。

2011/10