りぼんの読書ノート

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幻の神器(篠綾子)

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平安鎌倉期の物語を紡ぎ続けている著者が題材としたのは、「古今伝授」でした。百人一首の編者として名高い藤原定家が、老父の俊成から「三種の御題」を解けば「古今伝授」を授けると伝えられたところから物語が動き始めます。定家はその直前に、鎌倉幕府の後ろ盾を得て朝廷で権勢を張ろうとしていた、源通親から「古今伝授」について尋ねられたばかりだったのです。

単なる和歌集の解釈ではなく、政治的にも重要な内容を含むと仕えられる「古今伝授」を入手すべく、俊成を誘拐した通親一派に対抗すべく、定家は「三種の御題」に隠された暗号解読に挑みます。彼に助力するのは、慈円の愛弟子で美貌で毒舌の僧侶・長覚と、紀貫之の血を引く石清水八幡宮宮司の息子・潮丸でした。

伝統的な和歌の修辞法と謎合わせをモチーフにした時代ミステリですが、「古今伝授」に隠されていた秘密が意表を衝いてくれます。実はその内容は、著者が後に月蝕で描く350年も昔の藤原氏の陰謀であり、天皇家の正統性にも関わる重大な事実なのですが。

なかなかよくできた物語ですが、このころの作品は少々固いですね。後の紫式部の娘。賢子がまいる!は、かなりくだけた作品になっており、人気もあがっているようです。

2018/6