りぼんの読書ノート

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僕とカミンスキー(ダニエル・ケールマン)

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ベストセラーとなった世界の測量で、同時代に生きて互いに異なる「極限」を目指した2人のドイツ人、ガウスフンボルトを魅力的に描いた著書のメジャーデビュー作だそうです。

本書は「盲目の老画家との奇妙な旅」と副題がついているように、主人公と画家とのロードムービー風の物語。主人公は、まだ若造で無名ながら、野心的な美術評論家のツェルナー。まだ評伝が書かれていない「大物画家」を物色して候補に挙がったのは、大詩人を養父に持ち、マチス最後の弟子で、ピカソの友人だったという、盲目のシュールレアリスト画家のカミンスキー

老画家にインタビューすべく、彼が隠れ住むアルプスを訪問したツェルナーは、老画家をドイツ縦断の旅に連れ出すことになってしまいます。若き日の恋人を訪ねる旅に・・。

評論家のツェルナーが冴えないご都合主義者で不愉快な人物であることは、はじめから示されています。まだ何も成し遂げてはいないのに自意識だけは高い一方で、「画家の評伝は、画家が死んでから売り出そう」などと考える、妙に計算高い男。

ではそんなツェルナーを手玉に取った老画家は、真の芸術家だったのでしょうか。徐々に明らかになってくるのは、カミンスキーが有名になったのは「偶然」という事実。カミンスキーの名前はそこそこ有名なのに、誰も彼の絵を知らない。マチスの弟子というのは彼の家に居座っただけのことで、ピカソとの交友には実体はない。名前が売れたのは、「盲目の画家」という話題性がアメリカで宣伝されたから。(しかも、盲目ではないんです)

物語は、ペテン師どうしが騙し合いながらの道行きの様相を呈してきます。でも最後にツェルナーが理解するのは、知られざる画家の素晴らしい天分なのでした。残念ながらこの「発見=悟り?」は、お金には結びつかないんですけどね。^^;

2009/4