りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2020-07-01から1ヶ月間の記事一覧

2020/7 Best 3

展開が冗長だったのでベストには選びませんでしたが、「ドン・キホーテの頭を狂わせた中世騎士道物語」として有名な、16世紀のスペインで出版された『アマディス・デ・ガウラ』を読みました。秘められた出生、貴種流離、想い姫に捧げた純愛、見知らぬ土地…

狙撃手のゲーム(スティーヴン・ハンター)

『極大射程』で颯爽とデビューしたスナイパー、ボブ・リー・スワガーは、著者と同じ年齢と言う設定であり、この作品では73歳。アイダホの自宅で悠々自適の隠棲中なのですが、そこに1人の女性が訪ねてきます。その女性ジャネットは、2013年にイラクの…

物語オランダの歴史(桜田美津夫)

もともと都市や州ごとに領地化されていた低地諸州を、16世紀に一体化させたのはハプスブルク家でした。しかしルター、カルヴァンらによる宗教改革運動は既に始まっており、現在のオランダとベルギーでは、いきなり宗教対立も絡んだ長い独立運動が起こって…

荒城に白百合ありて(須賀しのぶ)

ハイファンタジー系のラノベ出身で、これまで戦前の日本やドイツを舞台とする作品が多い著者ですが、両親は会津出身だそうです。「会津史観」が刷り込まれているので、逆に「幕末の会津のことは書きにくい」そうですが、本書の原案は「トリスタンとイゾルデ…

月桃夜(遠田潤子)

奄美の海を漂う少女・茉莉香のカヌーに舞い降りてきた隻眼の大鷲は、この世の終わりを待ちながら飛び続けているというのです。その大鷲が語り始めたのは、ある兄妹の物語でした。 時代は天保期。生まれながらの奴隷(ヤンチュ)として、島のサトウキビ畑で一…

オンブレ(エルモア・レナード)

村上春樹さんの翻訳による、著者初期の西部小説です。「なぜ半世紀以上も前に書かれた西部小説か?」との問いに対して、村上さんは「読み物としてとても面白く、小説としての質が高く、まったく古びていないから」と答えています。そして、著者後期のコンテ…

ドゥ・ゴール(佐藤賢一)

ドゥ・ゴールがパリ解放を祝ってシャンゼリゼを歩く、1944年8月26日の写真は有名です。しかしこの時彼は、実に際どい橋を渡っていたのです。ドイツに占領されていたフランスが、なぜ連合国による軍政を免れて、戦勝国として扱われたのか。それどころ…

エクソダス症候群(宮内悠介)

SF作品でありながら直木賞候補となった『盤上の夜』で鮮烈なデビューを飾った著者が、精神疾患の闇に迫った初めての長編です。 主人公は、火星に生まれて地球に移住し、精神科医となったカズキ。彼は恋人の自殺をきっかけに地球での居場所を失い、故郷の火…

荒潮(陳楸帆)

『紙の動物園』で鮮烈なデビューを果たしたケン・リュウの登場によって、中国SFが注目されるようになりました。本書の著者も世界的なSF作家たちから絶賛されており、日本ではケン・リュウが編んだ短編集『折りたたみ北京』に3編も収録されています。い…

沙中の回廊 下(宮城谷昌光)

没落寸前の家に生まれた士会を見出した文公は天命を有していましたし、文公を補佐した狐偃や先軫は優れた人物でしたが、文公の死後に晋の勢いは陰ります。後継の襄公は早世し、宰相となっていた趙盾が礼を怠るのです。襄公の死後、秦にいた公子雍を次の晋君…

沙中の回廊 上(宮城谷昌光)

中国を舞台とする歴史小説というと『三国志』や『項羽と劉邦』くらいしか思い浮かばなかった時代のこと。殷、周、春秋・戦国時代などの古代中国の物語をベストセラーとした著者の作品の中で、最初に読んだのが本書でした。今回は再読です。 春秋戦国時代とは…

セカンドハンドの時代(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ)

ベラルーシのジャーナリストである著者のライフワークである、ソヴィエト時代を生きた人々について書かれた5部作「ユートピアの声」の完結編であり、2015年にノーベル文学賞を授賞した作品です。 1991年のソ連崩壊直後から20年以上に渡り、社会変…

トリニティ(窪美澄)

1964年、時代が大きく変わろうとしていた東京オリンピックの年に創刊された新雑誌の編集部で、3人の女性が出会います。母娘三代物書きの裕福な家庭に生まれ、ファッション誌の文体を創り出したフリーライターの登紀子。地方で貧しい子供時代を過ごし、…

我らが少女A(髙村薫)

2012年の『冷血』以来、7年ぶりの合田雄一郎シリーズです。57歳となった合田は既に第一線を退いており、警察大学で教鞭を執っています。ここで2年ほど教えた後に本庁に戻って管理官となるというのが、警察官のエリートコースのひとつだそうですから…

パンク侍斬られて候(町田康)

「街道の茶店で休んでいる老人と娘の2人連れに浪人者が歩み寄る」という、いたって普通の時代劇のような始まりですが、直後にパンクが炸裂。浪人はいきなり老人を斬殺し、それを咎めた藩士に対して「彼らは藩に災厄をもたらす『腹ふり党』だと言ってのける…

パードレはそこにいる(サンドローネ・ダツィエーリ)

主人公のコロンバは、勇猛果敢でずば抜けた能力を持ちながらも、囮捜査のために赴いたパリで爆弾事件に巻き込まれて現在は休職中の女性捜査官。彼女を助ける失踪人捜査コンサルタントのダンテは、少年時代に誘拐犯に監禁されたことから閉所恐怖症を患ってい…

上と外(恩田陸)

物語の舞台となっているのがグアテマラのティカル遺跡。国立公園の入り口からピラミッド神殿群にたどり着くまで60キロもあるという、広大なジャングルに広がるマヤ遺跡であり、スターウォーズ4のロケ地にもなったという所。著者が実際に訪れたのは本書を…

真説宮本武蔵(司馬遼太郎)

「司馬史観」という言葉が生まれたほどに、歴史の新解釈に基づく著作を多く残した著者が、有名無名5人の剣客を描いた短編集です。本書は歴史小説というより人物デッサンのような作品集ですが、「膨大な資料の中から創り上げた人物像に世界史的な位置づけを…

『Shall we ダンス?』アメリカを行く(周防正行)

1996年に公開されて日本アカデミー賞を独占した「Shall we ダンス?」は、素晴らしい作品でした。会社帰りの電車から見えたダンス教室の女性に魅せられた中年男性が、ダンスによって中年の危機を乗り越えていくのです。しかも映画の完成後に、周…

K-19(ピーター・ハクソーゼン)

ハリソン・フォード主演で映画化されましたが、本書は旧ソ連原潜の保安環境がいかに劣悪であったかを暴露したノンフィクション。一連の事故のハイライトが、1961年にK-19潜水艦で起きた原子炉のメルトダウンであったわけです。ちなみに本書の原題は…

緋の天空(葉室麟)

古都・奈良を巡っていると、光明皇后ゆかりの寺院や史跡が多いことに気づかされます。夫の聖武天皇に進言した東大寺の創建と大仏建立、彼女の寄進物を収めた正倉院、彼女が創建・整備した興福寺、法華寺、新薬師寺などの寺院。彼女の生誕の地に残る「光明池…

アマディス・デ・ガウラ 下(ガルシ・ロドリゲス・デ・モンタルボ)

讒言にあってブリテン王リスアルテの宮廷を去り、重い姫オリアナとも別れることになったアマディスは、名前を隠して放浪の旅に出ます。ボヘミア、ルーマニア、コンスタンチノープルで活躍し、各地の王に愛でられ、女王に愛されたりするのですが、ブリテンで…

アマディス・デ・ガウラ 上(ガルシ・ロドリゲス・デ・モンタルボ)

17世紀初めに出版された『ドン・キホーテ』において、「ドン・キホーテの頭を狂わせた物語」として言及されているのが、その100年前に出版された本書です。13世紀から14世紀にかけてフランスで形作られた中世の騎士道物語が、スペインに伝わって完…