展開が冗長だったのでベストには選びませんでしたが、「ドン・キホーテの頭を狂わせた中世騎士道物語」として有名な、16世紀のスペインで出版された『アマディス・デ・ガウラ』を読みました。秘められた出生、貴種流離、想い姫に捧げた純愛、見知らぬ土地での冒険、強大な敵との対決、魔法使いの存在、玉座へ至る道などの「騎士道物語のエッセンス」は、「スター・ウォーズ」や「ドラゴン・クエスト」などのヒロイック・ファンタジーに姿を変えて、現代にまで引き継がれているのですね。千年前の『源氏物語』が現代の恋愛ストーリーに影響を与えているのと一緒です。
1.我らが少女A(髙村薫)
2012年の『冷血』以来、7年ぶりの合田雄一郎シリーズです。既に第一線を退いて警察大学で教鞭を執っている57歳の合田が、新たな事実が判明した12年前の未解決事件に挑みます。東京郊外の野川公園で写生中の元中学美術教師が殺害された事件のカギを握っていたのは、当時15歳であった中学生たちでした。彼らは12年の時を経てどのような人生を歩んでいるのでしょう。それぞれ過去と折り合いをつけて生きてきたはずだったのに、亡霊のように蘇ってきた「少女A」の共同幻想は、彼らの人生にどのような影響を与えていくのでしょう。一人一人の思いが丁寧に描かれていきます。
2.トリニティ(窪美澄)
1964年、東京オリンピックの年に創刊された新雑誌の編集部で、3人の女性が出会います。ファッション誌の文体を創り出したフリーライターの登紀子。20代の若さで雑誌の表紙に抜擢されたイラストレーターの妙子。編集職への誘いを断って結婚退職する道を選ぶ鈴子。社会進出した女性にとっての激動期を生き抜いた3人の女性たちの物語は、現在も続く葛藤の原型です。女性にとっての「三位一体」とは「男、結婚、仕事」なのか、「仕事、結婚、子ども」なのか。その全てを手に入れたいというのは欲深い望みだったのでしょうか。
3.セカンドハンドの時代(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ)
ベラルーシのジャーナリストである著者のライフワークである、ソヴィエト時代を生きた人々について書かれた5部作「ユートピアの声」の完結編であり、2015年にノーベル文学賞を授賞した作品です。ソ連崩壊直後から20年以上に渡り、社会変化によって運命の激変を体験した人々へのインタビューは、壮大な悲劇を形作っています。しかし「真の歴史が語られるのは、口を封じられた庶民が口を開くときでしかない」と語る著者は、「人々は廃墟の破片からでもなにかを建設したいもの」との信念を有しているのです。
【その他今月読んだ本】
・アマディス・デ・ガウラ 上(ガルシ・ロドリゲス・デ・モンタルボ)
・アマディス・デ・ガウラ 下(ガルシ・ロドリゲス・デ・モンタルボ)
・緋の天空(葉室麟)
・K-19(ピーター・ハクソーゼン)
・上と外(恩田陸)
・パードレはそこにいる(サンドローネ・ダツィエーリ)
・パンク侍斬られて候(町田康)
・沙中の回廊 上(宮城谷昌光)
・沙中の回廊 下(宮城谷昌光)
・荒潮(陳楸帆(チェン・チウハン)
・エクソダス症候群(宮内悠介)
・ドゥ・ゴール(佐藤賢一)
・オンブレ(エルモア・レナード)
・月桃夜(遠田潤子)
・荒城に白百合ありて(須賀しのぶ)
・物語オランダの歴史(桜田美津夫)
・狙撃手のゲーム (スティーヴン・ハンター)
2020/7/31