りぼんの読書ノート

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K-19(ピーター・ハクソーゼン)

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ハリソン・フォード主演で映画化されましたが、本書は旧ソ連原潜の保安環境がいかに劣悪であったかを暴露したノンフィクション。一連の事故のハイライトが、1961年にK-19潜水艦で起きた原子炉のメルトダウンであったわけです。ちなみに本書の原題は「The widowmaker(未亡人製造機)」という凄まじいもの。 

 

冷戦時代のこと。アメリカのノーチラス号に先を越されたソ連では、あまりにも拙速に原子力潜水艦の建造を進めたようです。元アメリカ海軍大佐であった著者は、ディーゼル潜水艦ですら衝突・沈没事故を繰り返していたソ連には、原潜の大艦隊を保有する能力などなかったと断言しています。おざなりな安全訓練と、海軍士官訓練の不備と、政治ポストをめぐる縁故主義が、多くの事故を引き起こしていたのです。素人同然の放射能対策しかとっていなかった原潜が、高度な核弾頭技術によって製造された巡航ミサイルを搭載していたというから恐ろしい。 

 

一方で著者は、K19艦長であったザティエフ大佐をはじめとする旧ソ連海軍士官と乗組員の勇気ある行動を、海軍仲間として高く評価しています。とりわけ、整備の不備からメルトダウンを起こした原子炉を抱えた原潜を、遠く離れた危地や最寄りの小島ではなく、友軍が訓練しているはずの海域に向かわせた極限状況の下での艦長判断は絶賛もの。このことが被曝量が少なかった乗組員の命を救ったのみならず、小島を放射能汚染からも救ったのです。 

 

しかしもっとも非難されるべきは、当時のソ連がとっていた秘密主義なのでしょう。K19で起こった事故は公表されず、同様の事故を何度も繰り返した末に、チェルノブイリの大事故に繋がっていったのですから。海洋投棄された原子炉と放射性物質が、現在でも海洋汚染を引き起こしていることも重大です。無記録・無認可の投棄については、もはや調べようもないようです。 

 

2020/7