りぼんの読書ノート

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『Shall we ダンス?』アメリカを行く(周防正行)

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1996年に公開されて日本アカデミー賞を独占した「Shall we ダンス?」は、素晴らしい作品でした。会社帰りの電車から見えたダンス教室の女性に魅せられた中年男性が、ダンスによって中年の危機を乗り越えていくのです。しかも映画の完成後に、周防監督がヒロインを演じた草刈民代と結婚するというおまけつき。 

 

本書は周防監督自らが、この映画に目を付けて全米公開を目論んだミラマックス社との共闘苦闘を綴ったノンフィクションです。当時はまだ、映画の海外進出事例は少なかったのでしょう。親近感を示しながら厳しい契約を迫るアメリカ流ビジネス。作品を気に入ったといいながら監督の意図を無視してズタズタに切り刻もうとするフィルムカット。コメディと誤解させるような予告編。そして5週間にわたる過酷な北米18都市キャンペーン! 

 

結果から言うと周防監督の努力は報われました。派手なアクションも、素晴らしい成功も、暴力もセックスもないこの映画の魅力は多くのアメリカ人観客に理解され、日本映画のアメリカでの興行収入記録を打ち立てたのです。監督は「あくまでもアメリカであることを配慮した編集バージョンであるから、オリジナルを知る日本の方には観て欲しくない」と述べていますが。オリジナルは2時間16分ですが、「2時間を超える外国映画はヒットしない」とのことで、重要なシーンも含めて切られてしまったのです。カット内容と理由と、監督の反論を詳細に綴った個所は、読み応えがあります。 

 

もうひとつ印象に残ったのは、各都市でのインタビューの内容。海外の映画監督が日本にキャンペーンに来た際の質問はいつも似たようなものばかりですが、アメリカでは質問者の個性が出るようです。もちとん繰り返し質問される項目も多いのですが、この映画の本質を衝いた質問から、この映画を全く理解していない質問までバラエティに富んでいるのは、読んでいて楽しい所。監督は結構腹立たしい思いもしたようですが。 

 

この映画は後にリチャード・ギアとジャニファー・ロペスの主演でリメイクされています。そのメイキングにも立ち会った監督は『アメリカ人が作った「Shall we dance?」』という著作も出していますが、これは読まなくてもよさそうです。リメイク映画も見ていませんし。 

 

2020/7