りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2019-03-01から1ヶ月間の記事一覧

2019/3 熱帯(森見登美彦)

今月の読書を振り返るより、Yahooブログが閉鎖されるというニュースにショックを受けています。15年かけて4000冊近く書き溜めたレビューを移転しても、苦労して維持している索引機能は失われてしまうし、何よりブログ人口が減っている中で移転先だって…

鯖猫長屋ふしぎ草紙 4(田牧大和)

かつての義賊「黒ひょっとこ」で今は画描きの青井亭拾楽が、鯖縞模様が美しいオス三毛猫サバと移ってきた長屋を舞台とする、ちょっと不思議なお江戸ミステリの第4弾。たびたび霊感を発揮して長屋の危機を救ってきたサバに敵対するライバルが登場します。 サ…

オペレーションZ(真山仁)

日本国の借金は千兆円を超え、基礎的財政収支は赤字が続いています。2018年度予算で見ると、63兆円の税収に対して74兆円の支出でマイナス11億円。これに含めて23兆円の国債利払いをまかなうために34兆もの新規国債を発行しているのですから、…

熱帯(森見登美彦)

著者が長い中断を経て完成させた本書は、「小説についての小説」です。「汝にかかわりなきことを語るなかれ」という警句から始まり、最後まで読み終えた読者がいないという奇妙な本『熱帯』をめぐる物語。 「提起された謎を解明してはいけない」という「沈黙…

京都伏見のあやかし甘味帖 1(柏てん)

あまり期待せずに読んだのですが、物語の構成にも、小道具である京都和菓子への造詣の深さにも感心させられました。ラノベ出身作家の一般的な弱点は人物造形が表面的なことではないかと思うのですが、このあたりはじっくりと熟成していくものなのでしょう。 …

カラヴァル(ステファニー・ガーバー)

年に一度開催され、勝者はひとつだけ願いを叶えてもらえるという魔法ゲーム「カラヴァル」。母が亡くなってから毎年、カラヴァルへの参加を望んでいた少女スカーレットのもとに待ち望んでいた招待状が届いたのは、父親に決められた結婚式の1週間前のことで…

ロンリネス(桐野夏生)

東京湾岸のタワーマンションに住む子育て期ママたちの実像を描いた『ハピネス』の続編です。前作では最上級家庭の夫と最底辺の美人ママ・洋子の不倫が、「ママ・カースト制度」をぶち壊していく過程が楽しかったのですが、やはり不倫は周囲を傷つけます。 こ…

穴(ルイス・サッカー)

児童書コーナーにあった本ですが、全米図書賞(児童文学部門)を受賞しているだけあって奥の深い作品です。シガニー・ウィーバーらが出演して映画化もされています。 主人公は、上から読んでも下から読んでも同じ名前のスタンリー・イェルナッツ(Stanley Ye…

両方になる(アリ・スミス)

不思議な構成の作品です。ともに第1章とされる「目の章」と「カメラの章」からなっていて、どちらから読んでも構わないというのですから。本書では「目の章」が前に置かれていますが、キンドル版などでは逆順のバージョンもあるとのことです。 「目の章」の…

ホワイトラビット(伊坂幸太郎)

著者自身が「籠城物の決定版」という本書は、小説内の警察はもとより読者もだましてしまうミステリに仕上がっています。 表層的な物語はシンプルです。誘拐を生業とする犯罪グループがオリオオリオという男を見つけ出す必要があり、仲間のひとりである兎田に…

AX(伊坂幸太郎)

2018年の本屋大賞ノミネート作品です。『グラスホッパー』と『マリアビートル』に続く「殺し屋シリーズ」ですが、各作品とも独立した内容であり、前作との登場人物リンクが多少ある程度。 本書の主人公は「兜」という恐妻家の殺し屋。凄腕なのですが、家…

レディ・ヴィクトリア 4(篠田真由美)

19世紀末ヴィクトリア朝のロンドンを舞台にして、天真爛漫なレディ・シーモア(ヴィク)と、国際色豊かな使用人たちが活躍する「歴史ミステリ」の第4弾は、女性解放問題を取り扱っています。「家庭の天使」こそ理想の主婦とされたヴィクトリア時代におい…

キャッツ・アイ(マーガレット・アトウッド)

語り手は著者自身の面影を宿した50歳の女流画家、イレイン。画廊での回顧展が開催される故郷トロントに戻るところから、彼女の半生が振り返られます。彼女にとって過去とは、「後になって安全な距離ができたときにはじめて眺めることができる」ものだった…

ミニチュア作家(ジェシー・バートン)

昨年アムステルダムのオランダ国立美術館を見学した際に、「ペトロネラ・オールトマンのドールハウス」を見ました。17世紀オランダで流行した精巧なミニチュアハウスで、本物の家1軒に相当する費用がかかっているとのこと。3階建て9室を飾る数百点の調…

あきない世傳 金と銀5 転流篇(高田郁)

摂津の武庫国から大坂天満の呉服商・五鈴屋に奉公に出た少女・幸の数奇な運命は、『前巻・貫流篇』までで、一応のおさまりを見ています。放蕩の末に事故死した4代目、商才はありながら人望がなく自ら店を去った5代目に次いで、優しいものの商才はない6代…

雪男は向こうからやって来た(角幡唯介)

「雪男」というと、ネッシーやヒバゴンやツチノコと同類の未確認動物(UMA)であり、その存在を信じることに胡散臭さを感じてしまうことでは、ほとんどUFOと同じレベルではないかと思います。しかしなぜ、多くの著名な登山家が雪男を「発見」している…

タンジェリン(クリスティン・マンガン)

柑橘系フルーツのようなタイトルですが、本書の意味は「タンジール人」。独立前夜のモロッコの、ジブラルタル海峡に面したタンジールで、女性2人の情念が交錯するサイコスリラーです。スカーレット・ヨハンソン主演で映画化されるとのこと。 夫ジョンととも…

源氏物語 千年の謎(高山由紀子)

輝くばかりの美貌と才能と家柄に恵まれた光源氏が次々と女性遍歴を重ねていったのは、何のためなのでしょう。しかも『源氏物語』の前半では、彼が出会う女性はことごとく不幸になっていくのです。正妻・葵は夫に心を開くことなく命を落とし、六条御息所は生…

京都インクライン物語(田村喜子)

明治維新後、首都機能も皇室も東京に移った後の京都は、近代都市としての発展を目指しますが、それを阻んでいたものは水資源の乏しさだったそうです。それを解消するために、琵琶湖から水を引く疎水事業を実現した者たちの物語。 前半の主人公は第3代京都府…

吹毛剣(北方謙三)

著者が17年の時をかけて書き上げた「大水滸伝シリーズ」の第2部にあたる「楊令伝(15冊)」の読本として出版されたのが本書です。タイトルは楊志から楊玲に引き継がれた家伝の銘剣の呼び名ですが、これはもともと宋建国期の功臣・楊業によって鍛えられ…

替天行道(北方謙三)

著者が17年の時をかけて書き上げた「大水滸伝シリーズ」全51巻は、「水滸伝(19冊)」、「楊令伝(15冊)」、「岳飛伝(17冊)の三部構成となっています。先日「岳飛伝」の読本として出版された『盡忠報国』を読みましたが、それぞれのシリーズご…

チャップリン自伝 栄光と波瀾の日々(チャップリン)

自伝の上巻にあたる『若き日々』では、貧しい少年時代からアメリカンドリームを掴み取って、破格の条件と年俸でミューチュアル社に迎え入れられるまでが描かれました。 本人は「この頃が一番幸福な時期だったかもしれない」と綴っていますが、「犬の生活」、…

チャップリン自伝 若き日々(チャップリン)

チャップリンのことを知らない人などいませんよね。山高帽にだぶだぶのズボン、ちょび髭にステッキというコミカルな姿で、笑いとペーソスを見事に体現した映画王。本書は、チャップリンが75歳の時に自らの半生を振り返った自伝です。 チャップリンは、18…