りぼんの読書ノート

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京都伏見のあやかし甘味帖 1(柏てん)

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あまり期待せずに読んだのですが、物語の構成にも、小道具である京都和菓子への造詣の深さにも感心させられました。ラノベ出身作家の一般的な弱点は人物造形が表面的なことではないかと思うのですが、このあたりはじっくりと熟成していくものなのでしょう。

29歳のキャリア女子であるれんげは、理不尽な退職勧告と結婚予定の彼氏の浮気によって、1日にして全てを失ってしまいます。傷心の末に「そうだ、京都行こう」と旅立った伏見で出会ったのは、民泊先のおっとり系大学生男子・虎太郎と、生まれたての神使という黒い子ぎつね。かくして始まった不思議な3人暮らしの中で、れんげは次々と怪異と甘味に出会っていきます。

いかにも子ぎつねがじゃれそうなケサラン・パサランは京都とはあまり関係なさそうですが、四尾の母狐・白菊はもちろん人語を解する謎めいた白鳥など、伏見稲荷に関わる神々や神使と出会う中で、れんげは大切なことに気づいていくのです。自分が多くのものを失ってきたのは、問題ときちんと向きわなかったせいなのだと。そして、子ぎつねを取り返そうとする白菊との対決に臨むのですが・・。

幕間に紹介される京都の甘味も、物語の展開を邪魔していません。宇治・能登掾の茶団子、平安神宮前・平安殿の粟田焼、西本願寺前・亀屋陸奥の松風、出町柳・満月の豆大福、祇園・鍵善良房の葛切、伏見駅前のパン屋・ゲベッケンなど、どれも試してみたいものばかりです。そういえば伏見稲荷だって普通の観光ルートしか回っていませんでした。全山が神域である稲荷山は広大で、神跡も数多くあるのです。

2019/3