りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

雪男は向こうからやって来た(角幡唯介)

イメージ 1

「雪男」というと、ネッシーヒバゴンツチノコと同類の未確認動物(UMA)であり、その存在を信じることに胡散臭さを感じてしまうことでは、ほとんどUFOと同じレベルではないかと思います。しかしなぜ、多くの著名な登山家が雪男を「発見」しているのでしょう。本書は、雪男の存在を信じていない著者が、新聞社の企画した「雪男捜索隊」に加わった経験をもとに書かれた作品です。

20世紀半ばにエベレスト遠征を主導したシプトンによる「足跡発見」によってブームとなって依頼、現在に至るまで多くの目撃情報が寄せられています。その中には今井通子田部井淳子という著名な登山家も含まれており、フィリピンで旧日本兵の小野田さんを発見した冒険家の鈴木紀夫などは、ヒマラヤで事故死するまで6度にわたって雪男捜索を行ったとのこと。

現実的には、大半の雪男現象は四足動物の見間違えや偶然的な足跡の重なりによって説明可能なわけですが、著者はか「推論など事実の力強さの前には常に無力だ」とも述べています。そしてひとたび雪男に出会った者は「人生を思いもよらなかった方向に向けさせられた」とも言うのです。これこそが「雪男は向こうからやって来た」という不思議なタイトルの意味であり、「雪男」を「運命」と言い換えてもよいのかもしれません。

少々綺麗に纏めすぎた感もありますが、ヒマラヤのダウラギリ近辺で2か月に渡って捜索隊に加わり、実際に現場を踏破した著者の考察には説得力を感じます。

2019/3