りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2011-07-01から1ヶ月間の記事一覧

陰陽師~醍醐ノ巻(夢枕獏)

若き陰陽師・安倍晴明と、親友で横笛の名手・源博雅の名コンビが、ゆるゆると酒をのみ、花を愛で、楽を奏で、月を見上げ、呪を語り、「ゆくか」「ゆこう」の決めゼリフとともに京の都で起こる怪事件を解決しに出かけていきます。このマンネリ感がいいのです…

トロイメライ(池上永一)

『テンペスト』のスピンオフ小説ですが、本編が黄昏の琉球王国を舞台とした宮廷小説であるのに対し、こちらは市井の人々の連作人情物語。 新米筑佐事(岡っ引き)の武太を狂言回しにして綴られる那覇の人情物語は、通常の時代小説で慣れ親しんだ江戸や大阪の…

満州国演義6 大地の牙(船戸与一)

前巻で描かれた南京事件に続き、徐州会戦、武漢作戦、広州占領、重慶爆撃と、日本軍の占領地域は全土に広がっていきますが、見方を変えればますます泥沼の深みに嵌っていく過程にすぎません。蒋介石に次ぐ国民党の大物・汪兆銘を抱きこんで傀儡政権を設立す…

穴掘り公爵(ミック・ジャクソン)

19世紀イングランドに、領地内に8本ものトンネルを掘らせていたのみならず、多くの奇行で知られていた公爵が実際にいたとのこと。本書は事実の上に虚構を覆い被せて、公爵の奇矯なふるまいの真相に到るというつくりの小説となっています。 リンゴの果実が…

花桃実桃(中島京子)

独身OLの花村茜の人生は、43歳になって一変してしまいます。会社のリストラにもあって、亡父・花村桃蔵の遺した、その名も古めかしいアパート「花桃館」の住み込み大家になるんですね。裏にお寺とお墓があるせいでしょうか。3階建て全9戸(空き室アリ…

人の道御三神といろはにブロガーズ(笙野頼子)

一見して神社の公式ページのように見える体裁でありながら、水中画像しかなく、リンク先がいろは順に48か所もある不思議なサイトを管理運営しているのは、『金毘羅』の化身たるS市在住の著者。 このサイトは、天孫系の神々によって宇佐を追われ、名前もア…

統ばる島(池上永一)

「統ばる(すばる)」とは、集まって一つになること。「すばる」の星のように集う、沖縄八重山諸島の8つの島を舞台にした連作短編集です。 竹富島:八重山の文化を最も色濃く残すこの島は、種子取祭の日には舞台に変わります。「神にご覧に入れる難曲を素人…

脱出山脈(トマス.W.ヤング)

アフガニスタンで捕虜にした反政府軍の宗教指導者を護送中に撃墜された輸送機が不時着したのは、ブリザードが荒れ狂う高山地帯。反政府軍が迫り来る中で機長は、極秘情報を持つ捕虜の奪回を阻止すべく、空軍少佐の航空士バースンと、陸軍軍曹の女性通訳ゴー…

ブラックライト(スティーヴン・ハンター)

「ボブ・リー・スワガー」サーガの前半3部作で、『極大射程』と『狩りのとき』を繋ぐ本書を読む機会がなかったのは、なぜか図書館になかったから。震災で浦安の図書館が長期クローズしていた間、勤務地の図書館を利用した際に見つけて手に取りました。 『極…

なずな(堀江敏幸)

東京での会社を辞めて地方の町の小さな新聞社に勤める40代の男性・菱山の生活は、生後2ヶ月半の姪「なずな」によって一変させられてしまいました。旅行会社勤務の弟が事故にあって海外で入院、義妹も感染症で入院とのことで、幼い姪を預かることになった…

人質の朗読会(小川洋子)

異国でテロリストに誘拐され、失敗した救出作戦によって爆死した8人の日本人が、人質となっていた中で行なっていた朗読会の記録という形で、8プラス1の物語が綴られます。それらは、それまでの自分の人生においてなぜか鮮明に記憶されていたというだけの…

ヴァレンタインズ(オラフ・オラフソン)

ささやかな傷が綻びを広げていき、気づくと大きな亀裂となっていることがあります。アイスランド出身の作家による本書は、淡々とした表現で「愛が損なわれた瞬間」を鋭く切り取った短編集。 12の短編につけられた1年の各月の無機質なタイトルは、このよう…

白の祝宴 逸文紫式部日記(森谷明子)

『千年の黙(しじま)』で、源氏物語の幻の第2巻「かかやく日の宮」が失われた理由を大胆かつロマンティックに推理した森谷さんが、今度は「紫式部日記」の謎に迫ります。 「かかやく日の宮」が失われてから10年後。源氏物語は、光源氏が栄華を極める「藤…

海炭市叙景(佐藤泰志)

1990年に41歳の若さで自殺した悲運の作家の遺作です。昨年映画化されました。 海に囲まれた北の町「海炭市」を舞台に、人々の絶望や希望を鮮やかに切り取った18編の連作短編集は、「冬」と「春」がモチーフの各9編から成り立っていますが、もともと…

キス(キャスリン・ハリソン)

読むのが辛くなる本というものがあります。「新潮クレストブックス」の第2回配本作品となった本書も、そんな一冊。 若くして結婚し、娘が生まれてすぐに離婚した両親。母に引き取られた娘は、自立を求めて苦しむ母から十分な愛情を注がれないまま、深く傷つ…

魔女の刻 4.悪魔の花嫁(アン・ライス)

ついに、悪霊ラシャーの目論見が明らかにされます。300年前にスコットランドの荒野でスザンヌによって呼び出されて以来ずっと、メイフェア家代々の魔女たちにとりついてきた悪霊は、13代めローアンの登場を待っていました。歴代の近親相姦も計画の一部…

魔女の刻 3.魔性の棲む家(アン・ライス)

最後の力ある魔女メアリー・べスが亡くなってから、娘のステラも、孫娘のアンサも若くして不可解な死を向かえ、アンサの娘ディルドレーは植物人間状態のまま死亡。 メイフェア家の代々の魔女たちにまとわりつく謎とは何なのか。生まれてすぐにカリフォルニア…

魔女の刻 2.メイフェア家の魔女たち(アン・ライス)

ゴシック・ホラーの大家による『ヴァンパイア・クロニクルズ』と並ぶ長編大作が、この『魔女の刻』シリーズ。残念ながら第1巻は図書館にもなくて、第2巻からの読書となってしまいましたが、一気に物語世界に引き込まれてしまいます。 第1巻で、海で溺れて…

ムーンライト・マイル(デニス・レヘイン)

映画化もされた『ミスティック・リバー』や『シャッターアイランド』、最近では歴史に題材を得た秀作『運命の日』の著者として知っていましたが、デビューは「私立探偵パトリックとアンジー」のシリーズだったのですね。前作から10年の空白の後に書かれた…

横濱 唐人お吉異聞(山崎洋子)

開国間もない横浜で母・紀代と暮らす娘・瑠璃の前に、かつて下田でハリス領事に仕えたという伝説の女「らしゃめんお吉」が現れます。紀代とお吉には過去に深い関係があったようなのですが、なぜかお吉を避ける紀代。 奔放なお吉はそんなことも気にせずに娘の…

兵士はどうやってグラモフォンを修理するか(サーシャ・スタニシチ)

旧ユーゴスラビア、現ボスニア・ヘルツェゴヴィナのヴィシェグラードに生まれながら、14歳の時に内戦を避けて家族とともにドイツに移住し、ドイツ語で書くことを選択した若い著者のはじめての長編は、「物語の力」を再確認するかのような自伝的な作品です…

忘れられた花園(ケイト・モートン)

バーネット、ブロンテ、デュモーリアらの後継者である「正統派英国文学」です。オーストラリアのブリスベンで祖母ネルを看取り、イギリスのコーンウォールにある海辺のコテージを相続した孫娘カサンドラは、叔母たちから、ネルはたったひとりでロンドンから…

天翔る少女(ロバート・A.ハインライン)

50年以上前に書かれた作品で、火星に山脈がないなど不可解な点も多いのですが、そこは眼をつぶりましょう。火星や金星で人類が普通に屋外生活できるなんてのは、長期のテラフォーミングの成果と理解すればいいのでしょうし。^^ 本書はジュブナイルとして…

七月の暗殺者(ゴードン・スティーヴンズ)

『ジャッカルの日』を思わせる硬派テロリズム小説ですが、暗殺者も捜査員も女性です。そうそう、ターゲットとして狙われるのも著名な女性でした。いかにも『カーラのゲーム』の著者らしいプロットです。 IRA暫定派による、ベルファストで獄中の闘士たちを…

蒼路の旅人(上橋菜穂子)

30代の女用心棒バルサを主人公とする「守り人シリーズ」に対して、シリーズ第1巻で彼女と深く関わった、新ヨゴ王国の皇太子チャグムの成長を描くのが「旅人シリーズ」。もちろん、両者は深く関連しあっています 『神の守り人』でバルサが異界ナユグの現世…