りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

人質の朗読会(小川洋子)

イメージ 1

異国でテロリストに誘拐され、失敗した救出作戦によって爆死した8人の日本人が、人質となっていた中で行なっていた朗読会の記録という形で、8プラス1の物語が綴られます。それらは、それまでの自分の人生においてなぜか鮮明に記憶されていたというだけの断片的な物語にすぎないのですが、どれも「他者との関係」をテーマとしています。

9つの物語のタイトルと、語り手の年齢、性別、職業を記しておきましょう。
「杖」インテリアコーディネーター、53歳女性、勤続30年の長期休暇を利用して参加
「やまびこビスケット」調理師学校教授、61歳女性、研修のオプショナルツアーで参加
「B談話室」作家、42歳男性、連載小説のための取材旅行中

「冬眠中のヤマネ」医科大学眼科学教室講師、34歳男性、国際学会出席の帰路
コンソメスープ名人」精密機械工場経営者、49歳男性、国際見本市参加の帰路
槍投げの青年」貿易会社事務員、59歳女性、姪の結婚式出席のための旅行中

「死んだおばあさん」主婦。45歳女性、夫の赴任先からの帰路
「花束」ツアーガイド、28歳男性、勤務中
「ハキリアリ」政府軍兵士、22歳男性、Y・H氏の通訳により放送

本書が出版されたのは2月25日ですが、3月11日以降に読んだ方のほとんど全員が、大震災と津波の犠牲となった方々のことを思い浮かべたことでしょう。理不尽な形で突然生命を断ち切られた人々が、後に遺せるものは何なのか。見知らぬ人々の記憶をたどることに、どんな意味があるのか。今現在、私たちが突きつけられている課題にほかなりません、

盗聴器を通じて朗読会を傍聴し彼らの記憶に触れた兵士が「プラス1」の物語を語るようになるとの展開が、著者の思いを象徴しているようです

2011/7