りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ヴァレンタインズ(オラフ・オラフソン)

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ささやかな傷が綻びを広げていき、気づくと大きな亀裂となっていることがあります。アイスランド出身の作家による本書は、淡々とした表現で「愛が損なわれた瞬間」を鋭く切り取った短編集。

12の短編につけられた1年の各月の無機質なタイトルは、このようなことがいつでもどこでも、誰にとっても、ごく普通に起きていると言っているかのように思えます。

1月:10年ぶりに元恋人と再会した男性は、女性から「明日入院する」と告げられます。もう昔に戻ってやり直すことはできないとわかった瞬間。

2月:夫の浮気を許して結婚を救おうとした妻は、浮気相手が親友だと知ってしまいます。それだけは隠し通そうとした夫も、そこまで言わせてしまった妻も後悔します。

3月:夫からの養子縁組の提案を断った妻は、夫が知人に架空の息子の話を生き生きとしていることを知ってしまいます。ずっと夫婦の間に存在していた溝に気づく瞬間です。

4月:夫も息子も湖で転覆したボートから救われましたが、妻は、夫が息子の手を離した瞬間を望遠鏡で見てしまっていました。

5月:長年連れ添った妻から突然、同性愛者だと告白され離婚を求められた夫の怒りは、目の前の妻にではなく、幸福な夫婦生活だと信じていた過去の日々に向けられます。

6月:新婚の妻が夫の性格に疑問を持ったのは、覇権的な父親に対する裏表ある態度に触れた瞬間でした。アイスランドの急流下りの情景は美しいのですが・・。

7月:夢を追うために家庭を棄てようとした夫が、病気の症状が出た途端、ふたたび妻に頼り始めます。夫の病が軽症と知った妻は、その事実を夫に告げません。残酷です。

8月:旅先のホテルのウェイトレスが結婚前に棄てた女性だと思い込み、復讐されると妄想した夫は、妻に過去を打ち明けてしまいます。こんなこと聞かされてもなぁ。

9月:顧客に媚びながら笑い者にされる夫との別れを妻が決意したのは、見るからに贋物の彫像を夫が高額で競り落とした瞬間。でも、旅先で同じ彫像を見つけた妻は・・。

10月:友人の恋人とのあやまちを犯した男は愛馬を贈って償おうとするのですが、それは別の裏切り行為なのでしょうか。

11月:アル中で妻と娘に去られ、断酒してやり直そうとする男。でも元妻は、彼が再び飲み始めたことに気づいてしまいます。その矢先に交通事故が・・。

12月:夫との行為の際に友人の夫を思い浮かべることがあると告白した妻に対して、夫が投げ返した秘密はもっと衝撃的なものでした。

失言、誤解、秘密、告白、失望、違和感、ぎこちない配慮、わざとらしい気配り・・。ちょっとしたことが修復不能な傷となっていくと思うと、これはもうホラーです。確かに、人と人との関わり合いは互いに傷つけあうことでもあるのでしょう。それだけではないと、信じたいですけどね。

2011/7