りぼんの読書ノート

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白の祝宴 逸文紫式部日記(森谷明子)

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千年の黙(しじま)で、源氏物語の幻の第2巻「かかやく日の宮」が失われた理由を大胆かつロマンティックに推理した森谷さんが、今度は「紫式部日記」の謎に迫ります。

「かかやく日の宮」が失われてから10年後。源氏物語は、光源氏が栄華を極める「藤裏葉」まで書き継がれ、宮中で絶大な人気を博しています。道長からの再三の要請を受けて、式部が再び中宮彰子に仕え始めた時、彰子の居所となっていた土御門邸は、白一色に飾り立てられていました。待ちに待った親王の出産という慶事を迎えていたのです。

紫式部が頼まれた「彰子出産記録」が、後の「紫式部日記」になるんですね。著者は「紫式部日記」がどうしてつまらなく、視点も定まらず、それにもかかわらず多くの写本が遺されたのかという謎に挑んでいきます。

日記の目的が「女官たちのホームビデオ」であり、宮廷から下がった途端に忘れられて歴史に埋もれていく女官たちが、自分たちの生活風景を書き綴って編集者の役に徹した紫式部に託したというのですが、どうなんでしょう。そして、日記に登場する女官らの子孫が写し取って大切に保存したというのですが・・

その「歴史の謎」に較べれば、紫式部をホームズ役に、侍女の阿手木をワトソン役にして解決される「親王誕生の夜に土御門館に逃げ込んだ盗賊の正体」と「呪符の犯人」との事件はミステリ性が薄いけど、そこを楽しむ本ではないのでしょう。

むしろ「栄華物語」の作者とされる先輩の赤染衛門、才気煥発で奔放な美女の和泉式部、若くして儚くなった中宮定子の親王・皇女を見守り続ける清少納言、さらにその他大勢の官女たちと紫式部の交流が、「いかにも」という感じで楽しめます。

そしてこの事件を、紫式部が「若菜」の構想を抱くきっかけとするのですからお見事です。「若菜」こそ、栄華を極めたはずの光源氏が精神的苦悩に沈み込み、ついには出家に至る「源氏物語第2部」の冒頭の巻となる、物語の大転換点なのです。自ら創りあげた世界を自分の手で破壊してしまう紫式部は、やはり恐るべきストーリー・テラーです。学生時代に岩波書店の「赤本版」で読んだ源氏物語の世界を思い出しながら読みました。

2011/7