りぼんの読書ノート

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七月の暗殺者(ゴードン・スティーヴンズ)

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ジャッカルの日を思わせる硬派テロリズム小説ですが、暗殺者も捜査員も女性です。そうそう、ターゲットとして狙われるのも著名な女性でした。いかにもカーラのゲームの著者らしいプロットです。

IRA暫定派による、ベルファストで獄中の闘士たちを救出する作戦が無残な失敗に終わった直後、もうひとつの作戦が開始されます。それは、すでにロンドンに潜入して決起の時期を待っている「スリーパー」に指示を出し、英国王室を標的としたテロを行なうという、極秘の作戦でした。

「スリーパー」の正体は、かなり早い時期に読者に知らされます。IRA指導部でもひとりしか正体を知らない「スリーパー」は、ロンドンでキャリア社会に身を置く若い女性フィリッパ・ウォーカーことシヴォーン・マッキャン。自分が養女であり、実の父母がIRAに身を捧げていたことを成人した後に知った彼女は、アイルランドの惨状を目の当たりにして真の祖国への忠誠を誓っていたのです。

「スリーパー」に対するのは、女性であることを理由に何度もラインから外されながらも、並外れた有能さを示して捜査の一線に復帰したMI5の覆面捜査官キャシー・ノーラン。彼女は「キャッチャー」のコードネームを持つことになります。

著者はIRAにも英国政府にも肩入れすることなく、多くの人物の視点からストーリーを冷静に展開し、「スリーパー」対「キャッチャー」の対決構図に収斂させていくのですが、最後にもうひとつ仕掛けを用意しています。『カーラのゲーム』でハイジャッカーの要求が意表を衝いたように、本書においてもテロリストの要求が「歴史を動かす」ようなのです。それも、いい方向に。

既に「スリーパー」に感情移入している読者には、すんなりと受け入れられるのですが、ちょっと危ない主張かもしれません。もちろん著者の狙いはテロリズムの正当化ではなく、「テロを必要としない社会」の実現なのですが・・。

ともあれ、キャラも展開も十分に堪能できる、極めて高い水準を満たしている作品です。しかも、読んでいてゾクゾクするほど楽しめるのですからね。^^

2011/7