りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2009-01-01から1ヶ月間の記事一覧

2009/1 そろそろ旅に(松井今朝子)

1月には松井今朝子さんの本を3冊も読んでしまいました。中でも『そろそろ旅に』は、十返舎一九の青春時代を題材にして、一九という人物造詣を見事に作り上げながら、江戸後期の「文学界」事情をも描いた傑作だと思います。大阪で浄瑠璃作家としてデビュー…

運慶の謎(山野貞子)

運慶と言えば、表紙の写真にもなっている東大寺南大門の金剛力士像。もちろんそれ以外にも多数の名作を生み出した、平安末期~鎌倉初期を代表する仏師です。その作風は、本書の中で「知らぬふり仏」とも言われる、それまでの丸みを帯びて女性的な平安仏像と…

イノセント(イアン・マキューアン)

本格スパイ小説にもひけをとらないプロットですが、そこはマキューアンさんらしく、本質的には細やかな感情の揺れや心理の動きを描いた、上質な作品に仕上がっています。 終戦後のベルリン。世間知らずの英国人青年技師レナードは、東西を隔てる境界線を地下…

銀河のワールドカップ(川端裕人)

とっても楽しい小説でした。就寝前にベッドの中で読み始めたところ、面白くてページを閉じることができないままに、翌日のことを顧みず一気読みしてしまったほど。翌朝つらかった・・^^; 「少年サッカー小説」なのです。選手としても指導者としても挫折し…

ミスター・ヴァーティゴ(ポール・オースター)

「ヴァーティゴ」とは「vertigo」のことで、「高い所から下を見たときの目のくらみ」という意味だそうです。「vertical go」からの造語かと思ったら、ちゃんと辞書にも載っていました。 本書の主人公であるウォルトは、両親を失って伯父夫婦の厄介者として育…

夜中に犬に起こった奇妙な事件(マーク・ハッドン)

数学や物理では天才なのに、他人とうまくつきあえない15歳の少年クリストファー。理屈に合っていることと安定した状態を好み、見知らぬものや嫌いなものに出会うとパニックに陥ってしまう。比喩や隠喩も理解できず、まして空気なんか読めない。 心を閉ざし…

謎手本忠臣蔵(加藤廣)

『信長の棺』にはじまる三部作の次に、加藤さんが書いたのはなんと「忠臣蔵」でした。公式記録に残っていない浅野内匠守の刃傷事件の理由は、いったい何だったのか。巷間で噂になった、勅使供応を巡るトラブルとか、吉良上野介の吝嗇によるいざこざなどは、…

本を読む女(林真理子)

読み始めてから気づきました。これ、以前にNHKで、「夢見る葡萄」とのタイトルでドラマ化されていましたね。主人公の万亀(まき)を、菊川怜さんが好演していました。 林真理子さんが、自身の母親をモデルにして描いた小説。山梨の老舗和菓子屋に生まれた…

楊令伝7(北方謙三)

前巻では互いに傷を癒しながら、来るべき決戦に備えていた宋禁軍と梁山泊軍の間で、ついに全面対決の火蓋が切られます。これが最終決戦となるのでしょう。「禁軍の岳飛vs梁山泊の花飛麟」という若い才能が、煌きの片鱗を見せ合ったのもつかの間、「趙安vs呼…

夢見るピーターの七つの冒険(イアン・マキューアン)

イギリス文学界をリードする著者が、「大人向けに書いた子どもの小説」です。空想好きの少年ピーターが、ふとしたはずみで想像の世界に心を奪われてしまって、「自分でない別のもの」になってしまう不思議な冒険は、楽しいだけではありません。それは、他者…

銀座開化おもかげ草紙 果ての花火(松井今朝子)

前作『銀座開化おもかげ草紙』を読んだ時の、「次巻は西南戦争!」との予想は外れました。明治9年は本書の中でゆっくりと流れていきます。 元旗本の家に生まれた久保田宗八郎は、ひょんなことから銀座の煉瓦街に居を構え、大垣藩主の若様や、耶蘇教書店を営…

幕末あどれさん(松井今朝子)

「あどれさん」とは、フランス語の「adolescents」で、「若者たち」のことだそうです。先に読んでしまった本書の続編『銀座開化おもかげ草紙』は、若くして世捨て人的な主人公の久保田宗八郎が、新政府高官の横暴に直面して反抗の炎を再び心に灯すまでの物語…

ビッグバン宇宙論(サイモン・シン)

『フェルマーの最終定理』や『暗号解読』で、難解な理論を平易な物語に仕立てて読ませてくれた著者の第三作は、「宇宙論」でした。 そもそも、どうして昼は明るく、夜は暗いのか。以前読んだ「ビッグバン入門書」は、このような疑問からはじまっていました。…

そろそろ旅に(松井今朝子)

駿河で同心の家に生まれた重田与七郎は大阪の材木問屋の養子に入り浄瑠璃作家になりますが、何のヴィジョンもなく、ただふらふらと旅立ちたいと思う心のまま江戸に出て作家を目指します。 当時の江戸は、山東京伝の黄表紙・洒落本の全盛時代。蔦屋重三郎の元…

アフリカで一番美しい船(アレックス・カピュ)

ハンフリー・ボガートとキャサリン・ヘップバーンが競演した「アフリカの女王」という映画をご存じでしょうか。第一次大戦中のアフリカで、各国植民地の接点にある湖を制しているドイツ砲艦に、飲んだくれのポンポン船の船長と宣教師の妹が捨て身の戦いを挑…

ツアー1989(中島京子)

ちょっと変わった作品でした。バブル時代の1989年に行われた香港パッケージツアーで消えた青年をめぐる物語。といっても、ぐるぐるとめぐっているのは関係者の「記憶」です。 舞台はツアーから十数年後の現代。平凡な主婦のもとに届けられた謎のラブレタ…

のぼうの城(和田竜)

大人気のこの本が、ようやく回ってきました。「ベストセラー」というのは普段は本を読まない人にまで広がった本のことなので、あまり期待していなかったのですが、着想はおもしろい。 天下統一を目前にした秀吉の軍勢が圧倒的大軍で北条氏の小田原城を攻囲し…

出星前夜(飯嶋和一)

「天草・島原の乱」というと、誰でも思い出すのは天草四郎ですが、本書では完全に脇役。キリシタンによる殉教物語というのはあくまでも乱の一面でしかなく、実は過重な年貢に悲鳴をあげてやむなく立ち上がった農民たちの一揆に、幕府の理不尽なお取り潰しに…

小説フランス革命2 バスチーユの陥落(佐藤賢一)

聖職者の切り崩しに成功して「憲法制定国民議会」となっただけでは、改革は進みません。優柔不断のルイ16世が、なかなか態度を明らかにしないのです。貴族の特権を剥ぎ取って国庫を充たしたいものの、やはり国王にとって平民は遠い存在。状況を打開するべ…

小説フランス革命1 革命のライオン(佐藤賢一)

フランス歴史小説の第一人者・佐藤賢一さんが、万を持して送り出す『小説フランス革命』。しかも、年2巻のペースで全10巻を発刊していくという大構想ですので、ファンとしては「待ってました!」と声をかけたくなる快挙です。 「いきなり不穏」となる第一…

炎の眠り(ジョナサン・キャロル)

今までに読んだジョナサン・キャロルの中で、この作品が一番好きかな。孤児だった主人公ウォーカーの「自分探しの旅」が思わぬところに行き着きます。まさか、最後に赤ずきんが登場するなんて・・。 運命の恋人マリスと出会って、ウィーンに移り住んだウォー…

わが愛しき娘たちよ(コニー・ウィリス)

年末から年始にかけてずっと忙しく、4日間でこれ一冊だけ。でも、箱根駅伝も結構見てたりして・・(笑)。 本書は、1985年に出版された著者最初の短編集。表題作「わが愛しき娘たちよ」は、山田和子さんの解説によると、出版当時に相当の論議を呼んだ作…

聖餐城(皆川博子)

「ドイツ30年戦争」というと、1618年のボヘミアの新教徒貴族の叛乱に端を発して、1648年のウェストファリア条約による和平まで、カトリックの神聖ローマ帝国軍と、ドイツ国内諸侯軍、さらにはデンマークやスウェーデンやフランスまでもが加わって…