りぼんの読書ノート

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ビッグバン宇宙論(サイモン・シン)

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フェルマーの最終定理暗号解読で、難解な理論を平易な物語に仕立てて読ませてくれた著者の第三作は、「宇宙論」でした。

そもそも、どうして昼は明るく、夜は暗いのか。以前読んだ「ビッグバン入門書」は、このような疑問からはじまっていました。答えは、ドップラー効果による赤方偏移が、無限の星々による無限の光量が地球に届くことを妨げており、これが「膨張する宇宙」を裏付けているとの内容だったように記憶していますが、これだけでは「ビッグバン」を証明するには不十分だったようです。

銀河までの距離計測の精度向上による、宇宙の形成時期と地球の形成時期との間の矛盾の解消。水素やヘリウム以外の重い元素はいかにして生成されたのかとの謎の解明。「ビッグバンのこだま」と言われる、宇宙マイクロ波背景放射(CMB放射)の発見。銀河形成の謎を解き明かす、CMB放射の微小な揺らぎの証明・・。多くの研究者による数々の研究の堆積の結果、「ビッグバン理論」の正しさが信じられるようになってきたんですね。

「ビッグバン理論」が「静的宇宙論」に対して優位となり、ついにはパラダイム・シフトに至る道筋は、「天動説」が「地動説」を覆していったプロセスと似ています。そもそも遠い宇宙からの光や電波の観測を物理理論と照合させて成立している天文学ですから、検証作業は地道なものであり、時間もかかるのです。

例によって、研究者たちの「楽しい」エピソードも、本書に色を添えてくれます。アインシュタインは最初「ビッグバン・モデル」を否定したとか、イギリスで世界最高の天体画像分析チームを率いたのはメイドだったとか、電波中の雑音除去の試みが電波天文学を生んだとか、宇宙論学者の間の醜い誹中傷争いとか、楽しく読める「物語」部分もふんだんに含まれています。

「ビッグバン・モデル」はもはや「定説」となったようですが、最大の謎は残っています。ビッグバン以前はどうなっていたのか? そして宇宙の拡散には終わりが存在するのか? いずれ何かがわかるのかもしれませんが、今の段階ではそれらに答えるのは形而上学のようです。

2009/1

【メモ】
本書のまとめとして、主な「宇宙論史」だけでも記載しておきましょう。ここに登場する研究者の名前だけでも「綺羅星」のようですね。
2世紀:プトレマイオスの「地動説」完成
15世紀:コペルニクスの「天動説」成立
16世紀~17世紀:ティコ・ブラーエの天体観測装置、ケプラーの楕円軌道論、ガリレオの望遠鏡
18世紀~19世紀:ニュートン万有引力論、ハーシェル望遠鏡による銀河の発見
20世紀:
アインシュタイン相対性理論(新しい時空論)
・メシエの星雲観測(銀河はひとつではない)
・ヘンリアッタ・リーヴィットのセファイド変光周期と明るさの関係の発見(距離のものさし)
ハッブルによる星雲内変光星の発見(星雲は別の銀河)
・分光学による星の成分の分析
ドップラー効果赤方偏移)による遠ざかる銀河(膨張する宇宙)
ハッブルによる、銀河の距離と速度の観測(遡れば、過去は1点?)
・ガモフ、アルファ、ハーマンによる「ビッグバン理論」の登場
・ホイル、ゴールド、ボンディによる「静的宇宙論」の反論
ハッブルの観測結果が、アインシュタインをビッグバンモデル支持者に変える!
・原子物理学による核融合理論の発展(大きな原子創造理論)
・バーデとサンディッツによる銀河までの距離の修正
・ホイルによる重い元素の形成理論(寿命を経た星の内部で形成)
・電波天文学による、若い銀河とクエーサーの存在と偏在性の発見(銀河の分布は均一ではない)
・ベンジアスとウィルソンによるCMB放射の発見(ビッグバンのこだま)
・COMB衛星によるCMB放射の微小なゆらぎの発見(銀河形成の種)