りぼんの読書ノート

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小説フランス革命1 革命のライオン(佐藤賢一)

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フランス歴史小説の第一人者・佐藤賢一さんが、万を持して送り出す『小説フランス革命』。しかも、年2巻のペースで全10巻を発刊していくという大構想ですので、ファンとしては「待ってました!」と声をかけたくなる快挙です。

「いきなり不穏」となる第一巻では、ルイ16世によって召集された全国三部会が、第三身分の平民議員たちを中心とする憲法制定国民議会として動き出すまでが描かれます。この後、シリーズ終盤まで主役級の活躍をするはずのロベスピエールは、まだ弁護士上がりの未熟な少壮議員にすぎず、歴史を展開させていくのは「革命のライオン」と称されたミラボー。この男、貴族出身でありながら放蕩息子として父親から廃嫡され、しかし現実的にものごとを動かす手腕によって民衆の人気も高く、第三身分としてプロヴァンスから議員に選出される。

この徹底的なリアリストが、理論や理想を声高に叫ぶだけの議員が多い中で異彩を放ちます。まずは、ライオンのようにいかつい怪異な容貌。周囲の雑音を封じる、咆哮のような大声。こんな男が、繊細な裏工作を進めるのですから、意外性たっぷり。

特権階級である第一身分の聖職者代表、第二身分の貴族階級から締め出された平民議員たちは、貧しい司祭も含まれている聖職者代表の切り崩しを試みるのですが、うまくいきません。議会が空転する中、ミラボーは、高級聖職者たちの巻き込み工作に走ります。彼が描いていたのは、国王と平民が組んで、貴族の特権を剥ぎ取る構図。聖職者たちに「平民か貴族か」ではなく「国王か貴族か」の選択を迫るというのは「技あり」。もちろん、この後の革命は、全く違う道を突っ走ることになるのですが・・。

しかも、正論を振りかざすロベスピエールに教え諭すセリフが憎い。「亭主持ちの女を寝取るには、女が安心して浮気できるようにしてあげればいいのさ」ですって!

立憲君主制を理想とする、王党派のミラボーが描いた構図は、この後どのようにして過激化の一途をたどっていくのか。佐藤さんが今後の展開をどう描くのか、興味深々です。

2009/1