りぼんの読書ノート

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炎の眠り(ジョナサン・キャロル)

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今までに読んだジョナサン・キャロルの中で、この作品が一番好きかな。孤児だった主人公ウォーカーの「自分探しの旅」が思わぬところに行き着きます。まさか、最後に赤ずきんが登場するなんて・・。

運命の恋人マリスと出会って、ウィーンに移り住んだウォーカーの周辺で不思議な出来事が次々と起こります。30年以上前に死んだ男の墓に彫られた、自分そっくりの肖像。「ここにたどり着くまでずいぶんかかったね」と声をかけてきた見知らぬ老婆。自分のことを、わけのわからない名前で呼ぶ、自転車に乗った小男。やがて、知人が不慮の死を遂げ始めると、もはや「不思議」では済まされない。

月の骨に登場した映画監督も現れて、ある役割を果たすのですが、この本のテーマは、むしろ死者の書と共通しているようです。物語が現実のものとなって迫ってくる・・。

彼が迷い込むのは「本当は怖いグリム童話」の悪夢の世界。魔法、本当の名前、本当の父親、父親の呪い、そして、そもそもの始まりは・・。極めて危険な存在である彼の父親もまた、悲しい男だったというのがいいですね。思いもよらない決着のつけ方と、赤ずきんが登場するエンディングまで一気です。

2009/1