りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

銀座開化おもかげ草紙 果ての花火(松井今朝子)

イメージ 1

前作銀座開化おもかげ草紙を読んだ時の、「次巻は西南戦争!」との予想は外れました。明治9年は本書の中でゆっくりと流れていきます。

元旗本の家に生まれた久保田宗八郎は、ひょんなことから銀座の煉瓦街に居を構え、大垣藩主の若様や、耶蘇教書店を営む元与力や、薩摩っぽの巡査などの隣人たちと暮らしているのですが、彼の眼には「文明開化」といっても表面だけのまやかしに見えて仕方ありません。株式会社の誕生、廃藩置県廃刀令、徴兵制、四民平等・・。奇麗事の陰で、薩長閥に牛耳られた太政官政府の高官がほしいままに振舞っている姿を見るたびに、捨てたはずの武士の意地がうずいてくるのです。

水とあぶら:戸田の若様ですら騙されそうになる、株式公開詐欺が横行。

血の税ぎ:大金を積めば徴兵を避けられるとの噂が生んだ悲しい犯罪。

狸穴の簪:貧乏神でしかない元旗本の主人に惚れてしまった、使用人の娘の悲劇

醜い筆:尊敬する新聞記者の兄が、警察に仲間を売って自殺した真相は・・。

果ての花火:恐喝者に身を落とした元岡っ引きが見せた意地・・遠い九州で佐賀新風連の乱が起きる。

直びの神:「禍ついの神」から人々を救う「直びの神」を生むのは耶蘇教か神道か。それとも・・。

久保田家に仕えていた老女中を惨殺したのが、仇敵の薩摩高官・石谷であったと知り、敵討ちの斬り込みに乗り込む宗八郎でしたが、運命は両者の決着をつけさせてくれません。それでも時代は西南戦争という大転換期に向かって動いていき、矛盾が生み出す熱気は発火点に達しようとしています。「明治の新日本国はいまだ大いに揺れて、街も、人も、すべてが熱く燃えていた」との結びの一文は、続編での激変を予告しているようです。

2009/1