りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

夢見るピーターの七つの冒険(イアン・マキューアン)

イメージ 1

イギリス文学界をリードする著者が、「大人向けに書いた子どもの小説」です。空想好きの少年ピーターが、ふとしたはずみで想像の世界に心を奪われてしまって、「自分でない別のもの」になってしまう不思議な冒険は、楽しいだけではありません。それは、他者を思いやることに繋がっていくのです。本来であれば、それこそが「大人になっていく上で必須の過程」のようにも思えます。

「人形」になってしまった時には動けずに放置されてしまう者の悲しみを感じ、「ネコ」では死にゆく老猫になって、かつての、母の女学生時代を懐かしむだけでなく死ぬということの本質に触れたかのような経験をします。

「消えるクリーム」では、家族を消してしまうという恐ろしい経験をしたかと思うと、「いじめっ子」の強さなんて皆の幻想の上に成り立ってるだけと理解してしまう。「どろぼう」の手口だって見破ってしまうけど、「赤ちゃん」になってしまった時には、何も思い通りにはできず言葉も離せない中で、周囲の人の愛情の大切さに気づくのです。

最後にピーターは「大人」になります。いつも用事を思いついてばかりで、会話ばっかりして、何も楽しいことなんかなさそうな大人なんかにはなりたくなかったはずでしたが・・彼が最後に見つけたのは「恋心」でした。実際に恋するには、まだちょっと早いんですけどね。そういえば、読書というのも「他者の立場になって他者を理解する経験」ですね。

2009/1