りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

夜中に犬に起こった奇妙な事件(マーク・ハッドン)

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数学や物理では天才なのに、他人とうまくつきあえない15歳の少年クリストファー。理屈に合っていることと安定した状態を好み、見知らぬものや嫌いなものに出会うとパニックに陥ってしまう。比喩や隠喩も理解できず、まして空気なんか読めない。

心を閉ざしている訳ではないのですが、彼の周囲にある情報の選択ができないために全てがストレートに心に入ってくる。そして、その結果巻き起こる大きな感情の波に無防備に圧倒されてしまうのです。本書ではこの言葉は一度も使われていませんが、彼は「自閉症児」なんですね。

そんなクリストファーが、ある晩、近所のプードルがフォークで串刺しにされて殺されているのを発見してしまいます。パニック状態で死んだ犬を抱き寄せてしまい着せられてしまった濡れ衣は晴れたものの、彼は事件を解決しようと捜査を開始します。

彼が見つけた犯人はとっても意外な人物であって、それだけでもパニックを起こしてしまいそうになるのですが、もっと大きな衝撃が彼を襲います。2年前に心臓発作で死んだと教えられていたお母さんは、実は生きていてロンドンに住んでいるということを、捜査の過程で発見してしまうのですから。

クリストファーは手紙に記された住所を目指してお母さんを訪ねにいくのですが、ひとりで列車に乗って見知らぬ人に囲まれ見知らぬ場所に行くなんていう大冒険を成し遂げることができるのでしょうか・・。

この本は、死んだ犬を発見したクリストファーが、最後に子犬を手に入れる物語です。その意味では爽やかなハッピーエンドが約束されている少年の成長物語なのですが、彼が見出した真実は哀しいものでした。この後、彼が心を痛めることなく真っ直ぐに伸びていけるのかどうか、簡単な答えも保証もないということに思いを馳せざるを得ません。

2009/1