りぼんの読書ノート

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謎手本忠臣蔵(加藤廣)

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信長の棺にはじまる三部作の次に、加藤さんが書いたのはなんと「忠臣蔵」でした。公式記録に残っていない浅野内匠守の刃傷事件の理由は、いったい何だったのか。巷間で噂になった、勅使供応を巡るトラブルとか、吉良上野介の吝嗇によるいざこざなどは、およそありそうもなかったのに・・というのが、加藤さんの疑問だったようです。

では何が真の原因で、なぜそれは隠されたのか。加藤さんは、それを柳沢吉保の世論操作と結論付けます。刃傷事件の翌年に、五代将軍・家綱の生母である桂昌院が朝廷から異例の従一位を授かったこと。吉保に命じられて朝廷工作をしていた吉良上野介の権高な性格が、その妨げとなっていたこと。さらには、家康が関が原の戦いに際して福島正則に差し出した屈辱的な誓書が浅野家に伝わり、朝廷との交渉材料となった可能性があること(この部分は全くの推定でしょう)などが、その理由。

つまり浅野内匠守は、幕府と朝廷との情報戦争に巻き込まれた犠牲者であり、刃傷沙汰の動機を語らなかったのは、最後まで幕府に忠義立てをしたからなのだ。世間に伝わる物語は、真相を隠すために吉保が煽ったものに違いない・・としたんですね。

ちょっと苦しい。もちろん「小説」としてはどんな推理を働かせても構いませんし、こういう仮説も「アリ」とは思いますが、これだけのネタで上下2巻は長すぎです。

忠臣蔵のストーリーは誰でも知っているものですし、池宮彰一郎さんの四十七人の刺客という名著も既にあることですから、ひとつひとつの詳細なエピソードに新味はないのです。強いて言えば、大石内蔵介の遊興の相手が吉保や上杉家の放った女忍びであったなど、最後まで情報戦が続いていたという点が興味を繋いだくらいでしょうか。70歳を超えての作家デビューという経歴には、惜しみない拍手をおくるのですが・・。

2009/1/24読了