りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2007-06-01から1ヶ月間の記事一覧

楊令伝1(北方謙三)

北方水滸伝、待望の続編スタートです。19巻まで続いた『水滸伝』に続いて、またこれも長いんだろうなぁ。 梁山泊陥落から3年。青蓮寺による梁山泊の残党狩りが苛酷を極める中、生き残った同志たちは中国全土に散らばり潜伏しています。史進、呼延灼、張清…

双生児(クリストファー・プリースト)

めちゃくちゃ面白い大傑作ですけど、ネタバレなしでは紹介が難しい。 1936年のベルリンオリンピックにボート競技の英国代表として出場したジャックとジョーの双子が、戦争に巻き込まれていきます。ジャックは、英空軍に所属する爆撃機の操縦士として。良…

ジェネラル・ルージュの凱旋(海堂尊)

『チーム・バチスタの栄光』は面白かったのに、『ナイチンゲールの沈黙』、『螺鈿迷宮』と冴えない作品が続いてしまい、もうこの作者は見放しちゃおうかとも思ったくらいでしたが、この本は、かろうじて踏みとどまったかな。 テーマを「救急医療と病院経営の…

ユルスナールの靴(須賀敦子)

今世紀フランスを代表する作家ユルスナールに魅せられた筆者が、「彼女のあとについて歩くように」して綴った、美しい作品です。ユルスナールの作品と人生に触れながら、そこにそっと自分の人生を寄り添わしていく構成は、2人の女性によるハーモニーのよう…

五瓶劇場-からくり灯篭(芦辺拓)

ぞうの耳さんのブログで紹介されていた本です。並木五瓶という、実在の歌舞伎作家の半生をたどりながら、江戸の謎と怪異を語る独自の世界を描いた本です。ミステリー仕立てにはなっていますが、それほどミステリー臭さはありません。 大阪の夜に出没する青い…

アラトリステ4 帝国の黄金(アルトゥーロ・ペレス・レベルテ)

前巻では不毛のオランダ独立戦争に従軍していたアラトリステが、スペインに戻ってきました。本書の舞台は、新大陸との窓口であった当時のスペイン最大の港町セビーリャです。 黄金時代の終焉期では、新大陸からの富はスペインを潤すこともなく、右から左へと…

明智左馬助の恋(加藤廣)

『信長の棺』と『秀吉の枷』に続く、「本能寺三部作」の完結編。 本能寺にあった「抜け穴」の秘密や、信長の遺体の行方といった謎は、すでに第1作で解明されています。第2作ではこれに加えて、秀吉と秀頼の父子関係に潜む謎が持ち出されましたが、少々消化…

遠い山なみの光(カズオ・イシグロ)

イシグロさんの最初の長編だそうです。今は英国人と再婚して英国に住んでいる悦子は、戦後間もない長崎で当時の日本人の夫との間にできた子供を身ごもっていた頃の出来事に想いを馳せます。 あのころ所に住んでいた佐知子は、まだ幼い娘の万里子の将来の為と…

神の足跡(グレッグ・アイルズ)

原爆を生み出した「マンハッタン計画」を超える規模で進められている「三位一体(トリニティ)」と呼ばれるスーパーコンピューターの開発。そのプロジェクトの目的は、人間の頭脳の活動を分子レベルでコピーして人知を超えるAIを作り出そうというもの。計…

銀河ヒッチハイクガイド(ダグラス・アダムス)

1979年にイギリスで出版された小説の新訳だそうです。30年近く前のSFというのに、決して古びていない、愉快な作品。 ある朝突然に、田舎暮らしの平凡なイギリス人・アーサーの家の前にブルドーザーが現れます。アーサーの家はバイパス建設のために取…

夏の災厄(篠田節子)

光を忌避するようになり幻の甘い香りを感じ取るようになる脳炎で、インドネシアの絶海の孤島が人知れず絶滅してから数年後、同じ奇病が東京郊外のニュータウンで発生します。その周辺では、不気味に光る貝が大発生し、さらにはキジ科の野鳥・コジュケイの大…

市民ヴィンス(ジェス・ウォルター)

しがない州のしがない街(といっても著者の生まれ故郷なのですが)で、しがないドーナッツ屋の雇われ店長として働いている36歳のヴィンスは、まっとうな市民なのでしょうか。 どうやらそうでもなさそうです。4年前、マフィアの犯罪を裏付ける証言をして、…

半落ち(横山秀夫)

ずっと気になっていたけど、未読だった本です。映画の宣伝で、寺尾聡が主人公だったのが、読む気を失わせたみたい。 で、ついに読んでみたら、結構よくできている本でした。アルツハイマーに悩み、殺してくれと哀願する妻を絞殺したと自首してきた現職警部。…

ある島の可能性(ミシェル・ウエルベック)

精神的にダウナー系の本でした。そもそも、翻訳者が解説で「途中で怒りを感じても、この本は個人的な洞察にすぎないので物語に戻って欲しい」なんて書く本がありますか? 2000年後の未来。荒廃した地球で、古典的な人類は「野人」と化して原始的生活を営…

東京バンドワゴン(小路幸也)

「たくさんの涙と笑いを届けてくれたテレビドラマへ」とあるように、ひと昔前のテレビドラマへのオマージュなのでしょう。東京下町の古本屋「東京バンドワゴン」の大家族が繰り広げる、ちょっぴりミステリーの入った、ほのぼのホームドラマです。 当主は家訓…

中庭の出来事(恩田陸)

何重もの入れ子構造からなり、「何が虚構で何が現実か」の境界を「演技と謎」を利用して、ほとんど極限まで曖昧にしていく物語。もちろん、一番利用されているのは「小説」のフィクション性です。 感想を書くためには、ストーリーに触れなければなりません。…

螺鈿迷宮(海堂尊)

前作『ナイチンゲールの沈黙』でほのめかされていた、桜宮病院の問題にメスが入ります。桜宮病院は、老人介護センター、ホスピス施設と寺院を一体化させた複合型病院であり、終末医療の最先端施設として注目されていたのですが、その実態が明らかにされてい…

波の上を駆ける女(アレクサンドル・グリーン)

ロシアの幻想小説家が、1920年代に書いた小説です。革命後のスターリン時代に書かれたのに、全くといっていいほど「社会主義的リアリズム」の影響を感じさせない、不思議な小説。 親の遺産で暮らしている青年・ハーヴェイは、旅先での滞在中に「波の上を…

紅嵐記(藤 水名子)

14世紀、元末の動乱期を制して、明王朝を開く太祖・朱元璋の物語・・となるはずだったようなのですが、見事に失敗しています。 テーマとしての、目の付け所はいいと思うのです。元のフビライ/バヤンによる南宋滅亡の様子は「涯山の戦い」とか忠臣・文天翔…

Presents(角田光代)

女性が一生の間でもらう、さまざまなプレゼントを巡る12編の物語。 生まれたときに、親からもらった「名前」 小学校に入学するときに、祖母からもらった「ランドセル」 14歳の誕生日に、同級生の男子からもらった「初キス」 1人暮らしを始めるときに、母…

前巷説百物語(京極夏彦)

「百物語シリーズ」の主人公、「小股潜りの又市」の若き日の物語。まだ御行姿でもないし、百介やお銀と出会ってもいません。 上方から流れてきた又市を、裏家業に引き入れたのは「損料屋のお甲」。「損料屋」とは、物品を貸し出して痛んだ分、つまり損した分…

鹿男あをによし(万城目学)

女子高教師、剣道スポコン、古代歴史ロマン、人知れず世界を救う話・・と並べると、どこかで聞いたことがあるような話ばかりですが、「奈良」を舞台にして、世界遺産の「鹿」をからめ、「坊ちゃん」のテイストを振り掛けることによって「読ませる」物語に仕…

2007/5 空中スキップ(ジュディ・バドニッツ)

マンローもアクーニンもいいけど、今月のお奨めは、ジュディ・バドニッツ。長編『イースターエッグに降る雪』は2002年に出版されていましたが、今年、岸本さんが訳した短編集『空中スキップ』で、ブレイクでしょうか。 いきなり世界が変わってしまうよう…