りぼんの読書ノート

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波の上を駆ける女(アレクサンドル・グリーン)

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ロシアの幻想小説家が、1920年代に書いた小説です。革命後のスターリン時代に書かれたのに、全くといっていいほど「社会主義的リアリズム」の影響を感じさせない、不思議な小説。

親の遺産で暮らしている青年・ハーヴェイは、旅先での滞在中に「波の上を駆ける女」という不思議な声を聞き、寄港していた船が同じ名前であることを知って、何者かに導かれるように乗船します。ところが、その船のゲス船長(本当にゲス野朗です)と衝突して、あろうことか、無理やりボートで海上に置き去りにされてしまう。まさに生命の危機なのですが、ハーヴェイを救ってくれたのは、伝説の「波の上を駆ける女」フレジー・グラントでした。

ハーヴェイが着いた街は、象徴として「波の上を駆ける女」の像を崇めていたのですが、その像を破壊しようとする一派もいて、彼は、その像を守るために引き寄せられた?・・と思いきや、殺人事件が起きたりするのですが、どうやら主題は違うようです。これは、彼が出会った2人の少女を巡る物語なのかもしれません。

ひとりはビーチェ。父親の持ち物だった「波の上を駆ける女」号をゲス船長に騙し取られ、買い戻そうとしているのに、ゲス船長から言い寄られてしまう。船との因縁もあり、謎多きミステリアスな少女として描かれています。もうひとりはデジー。ハーヴェイを救出した船の船長の姪で、明るく屈託のない少女。ビーチェとデジーは、似ているものの対照的な存在として描かれます。

ハーヴェイは「波の上を駆ける女」と出合って助けられたことを2人に打ち明けるのですが、これを信じたのはどちらの少女だったのでしょう。意外なことに、不思議な少女は不思議な話を信じることが出来ずに彼から去っていき、全く不思議さを感じさせない明るい少女のほうがハーヴェイの話を信じて彼のもとに留まるのです。これは、「男性にとっての謎は女性である」というオチ? こういう小説を書く男性のほうが、よほど謎なのですが。

2007/6