テーマとしての、目の付け所はいいと思うのです。元のフビライ/バヤンによる南宋滅亡の様子は「涯山の戦い」とか忠臣・文天翔の「正気の歌」など物語にも多く登場していますが、元の滅亡と明の建国については、あまり知られていませんしね。1年間の約束で新聞に連載を開始したのが、それを超えても終わらず、収拾つかなくなっちゃったみたい(笑)。主人公は、悲惨な境遇から紅巾の乱に身を投じて、頭角を現した朱元璋のはずなのに、下巻に入るまで全然登場しないどころか、最後まで、ほとんど活躍しないで終わっちゃいました。
朱元璋のライバルとして、元の最後の承相であったトクトや、蘇州で王の名乗りをあげ、最後まで江南の覇権を争うことになった張士誠を配したのは、物語としての常道。モンゴルの名家に生まれながら漢文化の真髄ともいえる中華料理に心惹かれて料理人を目指すサカル(架空の人物です)を狂言回しに配し、トクトとサカルの間の愛に揺れ動く女性フラウンを物語の華として登場させたのも、いいでしょう。
でも、脇役たちを描いているうちに、どんどんページが進んじゃったようなのです。おかげで、史劇のハイライトとも言うべき部分は全部最後にとってつけたような「エピローグ」になってしまいました。この本に『項羽と劉邦』や『三国志』のようなスペクタクル史劇を期待してはいけません。^^;
2007/6