りぼんの読書ノート

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前巷説百物語(京極夏彦)

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「百物語シリーズ」の主人公、「小股潜りの又市」の若き日の物語。まだ御行姿でもないし、百介やお銀と出会ってもいません。

上方から流れてきた又市を、裏家業に引き入れたのは「損料屋のお甲」。「損料屋」とは、物品を貸し出して痛んだ分、つまり損した分の料金を貰う、今で言うリース業者なのですが、お甲が引き受ける「損」とは、物品だけではなかったんですね。

     大損、まる損、困り損、泣き損、死に損、遣られ損
     ありとあらゆる憂き世の損を、見合った銭で肩代わり
     銭で埋まらぬ損を買い、仕掛けて補う妖怪からくり

他のメンバーに言わせると、又市は青臭いのです。相手がどんな悪人であっても、「荒事」によって人死にが出てしまったら、その「損」は、埋め合わせるには大きすぎるのでは・・と悩むのです。「寝肥」、「大蟆」、「二口女」、「かみなり」、「山地乳」、「旧鼠」と続く、一連の事件にかかわる中で、「世に不思議なし」ではあるものの、「人の裁きには不平でも、神仏の裁きなら受け入れるしかない」という
世間に対して「仕掛け」の図面を描くようになる、又市の成長物語。

とはいえ、初期の仕掛けは、まだまだ荒削りで急場しのぎ。とてつもなく強大な力を持つ暴威に対しては、無力感も味わいます。事実、「旧鼠」で登場する悪役に対して最終決着をつけるに至るのは、相当後のことになる訳ですし。(『続巷説百物語』の「狐者異(こわい)」)

京橋の問屋の三代目(百介)や、浄瑠璃人形で遊ぶ少女(お銀)など、本編のレギュラーが、最後にチラッと顔見世するのはサービスでしょうか。このシリーズ、本編に続いて、「続」、「後」、「前」と出ていますが、もっと読みたいものです。

2007/6