りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2020-05-01から1ヶ月間の記事一覧

2020/5 Best 3

今月の1位は、日本小説界界に西洋歴史文学等というジャンルを切り開いた著者による『ナポレオン3部作』。さすがの安定感ですが、少々文体を変えたでしょうか。ジャン=クリストフ・グランジェの新作も読み応えありましたが、大きな収穫は日本SF界を担う高…

ナポレオン3.転落篇(佐藤賢一)

帝位についたナポレオンは、諸国との戦争に破竹の勢いで勝利し続けてヨーロッパをほぼ手に入れるに至ります。ジョゼフィーヌと円満離婚の上でオーストリア皇女マリー・ルイーズと再婚して跡継ぎも誕生。兄弟たちも近隣傀儡国家の王位につけた1811年が、…

ナポレオン2.野望篇(佐藤賢一)

フランスに勝利と平和をもたらした英雄としてパリに凱旋したナポレオンでしたが、権力を狙う危険人物とみなされて総裁政府からは厄介者扱いされてしまいます。彼を見込んで接近してきた策士タレイランの助言を得てナポレオンが次に取った行動は、唯一残った…

ナポレオン1.台頭篇(佐藤賢一)

全12巻の大作『小説フランス革命』は、「民主主義という高邁な理想を掲げた人たちが破綻していく物語」でした。著者が次に選んだ題材が『ナポレオン』であったのは必然なのでしょう。破綻した民主主義の代わりに強権政治を選ぶことは、歴史上何度も繰り返…

ヨハネスブルグの天使たち(宮内悠介)

デビュー作『盤上の夜』に続く2作目の作品は、日本製の少女型アンドロイド「DX9」を媒介として、近未来の都市と人間のありようを描き出す連作短編集でした。DX9は汎用品の玩具でありながら、耐久性に優れ、ほとんどAIともいえる高度な機能を有して…

物語ベルギーの歴史(松尾秀哉)

ブリュッセルにEU本部を擁してEUの首都とも称されるベルギーですが、ヨーロッパの大国はもちろん、隣国のオランダと比べても影が薄い印象です。古くからヨーロッパの十字路たる要所に位置していたことが、古代から多くの戦乱の舞台となり、1830年の…

盤上の夜(宮内悠介)

チェス、囲碁、将棋という対局型ゲームにおいて、AIの技量は既に人間を凌駕するに至っていますが、その先にはいったどのような世界が広がっているのでしょう。純然たるSF作品でありながら直木賞候補となった本書において、永遠とか真理とかいう概念がほ…

エデンの東 下(ジョン・スタインベック)

アダムの妻キャシーは、双子の男児を出産した直後に失踪。彼女はサリナスの町に出て娼館に入り、やがて女主人を殺害して経営を乗っ取る悪事を働くのですが、その事実は誰にも知られていません。一方のアダムは失意と絶望のどん底に陥り、友人のサミュエル老…

エデンの東 上(ジョン・スタインベック)

ジェームズ・ディーンが初出演にして主演を務めた映画が有名ですが、映画化されたのは本書の後半部分。著者が「自身の全てを注ぎ込んだ」と自負する超大作の前半では、父親たちの世代の物語が展開されます。タイトルは、弟アベルを殺害したカインが追放され…

ランドスケープと夏の定理(高島雄哉)

日本にもグレッグ・イーガンのようなハードSF作家が登場していたのですね。近未来の宇宙空間を舞台にして、超天才の姉テアに翻弄されながら、世界を激変させることになる新たな宇宙定理を見出していく弟ネルスの物語。第1から第3までの3つの定理に、3…

あとは野となれ大和撫子(宮内悠介)

近未来の中央アジアを舞台とする『後宮小説(酒見賢一)』のような趣で始まる物語ですが、後半になって既存国家や宗教勢力の狭間に建国された移民国家がいかにして生き残ることができるのか、という課題と向き合っていく作品です。著者は『盤上の夜』で20…

活版印刷三日月堂2.海からの手紙(ほしおさなえ)

川越の町にある小さな活版印刷所「三日月堂」を舞台にした、連作短編集の第2巻。亡き祖父母の跡を継いで印刷所を再開した弓子が、活版印刷が持つ暖かさを依頼人に届けていきます。 「ちょうちょうの朗読会」 朗読講座を受講している4人の若い女性たちが、…

活版印刷三日月堂1.星たちの栞(ほしおさなえ)

一文字ずつ活字を拾って組版を造りあげる活版印刷は、凹凸があって味のある作品を産み出せるものの、前工程の煩わしさと膨大な活字の保存がネックであり、デジタル印刷の普及とともにほぼ絶滅状態。現在では、名刺や葉書程度にしか用いられていません。小江…

旅に出る時ほほえみを(ナターリヤ・ソコローワ)

「サンリオSF文庫」に収録されていた、1965年の作品が白水社から復刊されました。SFというより寓話性の高い作品ですが、扱われているテーマは現代的です。 「怪獣」の創造者は、ただ「人間」と呼ばれています。この怪獣は金属製でありながら、人工血…

フランス王朝史3-ブルボン朝(佐藤賢一)

フランス中世から近代にかけての小説家として第一人者である著者が『カペー朝』、『ヴァロア朝』に続いて著わした、3つの王朝の中で最も華やかな時代が『ブルボン朝』。しかし200年続いたこの王朝には、たった5人の君主しかいなかったのです。 初代のア…

とめどなく囁く(桐野夏生)

7年前の海難事故で前夫・庸介を失った41歳の早樹は、72歳の資産家・塩崎と再婚。彼も前妻を突然の病気で失っており、互いに配偶者を亡くした者どうしの夫婦生活は静かで落ち着いたものとなるはずだったのですが・・。 物語のモチーフとして、庭園の石組…

美女いくさ(諸田玲子)

本書の主人公は小督。淀殿こと茶々を姉に持つ、浅野長政とお市の方の三女で、徳川秀頼に嫁いで第二代将軍の正室となった女性です。数年前の大河ドラマ「江〜姫たちの戦国〜」の主人公となり、上野樹里によって演じられました。 あらためて彼女の生涯を振り返…

死者の国(ジャン=クリストフ・グランジェ)

『コウノトリの道』、『クリムゾン・リバー』、『狼の帝国』で読者の度肝を抜いてくれた著者の久しぶりの翻訳は、なんと700ページを超えるポケミス史上最大の厚さ。一部では「赤レンガ」などと言われているようです。 主人公は、パリ警視庁犯罪捜査部の警…

三ノ池植物園標本室(ほしおさなえ)

ブラックな職場で心身をすり減らして会社を辞めた女性というと、最近よく見る導入ですが、本書は一味違いました。その女性・風里は、散策の途中で見つけた郊外の古い一軒家に引っ越し、近くの三ノ池植物園標本室でバイトをはじめます。植物園長である苫教授…

迷うことについて(レベッカ・ソルニット)

『災害ユートピア』の著者としてしか知りませんでしたが、著作リストを見ると、環境・人権・反戦・芸術など多面的な活動をされている方であることがわかります。「迷子になるためのフィールドガイド」との原題が付けられた本書は、「迷う」という言葉をキー…

献灯使(多和田葉子)

地震や津波や原発事故の連鎖で取り返しのつかないダメージを負った日本。総理大臣は行方不明になって民営化された政府は鎖国政策を採り、海外との往来も通信も途絶えています。外来語は禁止されて奇妙な和語に置き換えられ、わずかな太陽光発電に頼るエネル…

オスカー・ワイルドとコーヒータイム(マーリン・ホランド)

「コーヒータイム人物伝」シリーズの一冊。このシリーズは、過去の著名人とリラックスした雰囲気で会話するという設定で、わかりやすく人物像に迫るというもの。もちろん空想ですが、回答はその人物の著作や記録から引用されているので、かなり核心に迫って…