りぼんの読書ノート

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ナポレオン3.転落篇(佐藤賢一)

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帝位についたナポレオンは、諸国との戦争に破竹の勢いで勝利し続けてヨーロッパをほぼ手に入れるに至ります。ジョゼフィーヌと円満離婚の上でオーストリア皇女マリー・ルイーズと再婚して跡継ぎも誕生。兄弟たちも近隣傀儡国家の王位につけた1811年が、彼の絶頂期です。 

 

翌年のロシア遠征でモスクワに入城しながら焦土作戦と冬将軍に敗れたことをきっかけとして、ナポレオンの転落が始まる訳ですが、彼はなぜ絶頂に留まり続ける道を選ばなかったのでしょう。外交と内政を担ったタレイランフーシェも戦争継続には反対していたのに。フランス国家の安定と覇権の継続のためには和平が望まれていたのに対し、ナポレオン個人と後継者の権力維持のためには勝ち続ける必要があったのでしょう。このあたり、一代で得た権力を維持し続けられなかった秀吉の姿とダブッてきます。 

 

1814年、ついに退位を余儀なくされて地中海に浮かぶエルバ島へ追放されるものの、翌年には再起。ナポレオン討伐のために派遣された軍を次々に配下に治め、皇帝に復位を果たします、しかしそれも、ワーテルローでの決戦に敗れるまでの百日天下で終わったのです。そして追放された西太平洋の孤島セント・ヘレナでその生涯を終えることになるのでした。 

 

本書を待つまでもなく、ナポレオンの功罪は語りつくされています。ナポレオン戦争によって多くの人命が失われた一方で、革命精神や民族主義を欧州各地に広めて近代化を促した功績も大きいのです。しかし著者が本書でもっとも示したかったものは、「混乱期における英雄待望論への戒め」であるように思えたのですがいかがでしょう。 

 

日本いのいて西洋歴史小説というジャンルを開拓してきた著者が次に選んだ題材は、『ドゥ・ゴール』の伝記です。いよいよ現代史に挑むわけですが、西洋史の全ての時代を描き切ることが著者の野望ではないかとすら思えてきます。 

 

2020/5