りぼんの読書ノート

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ナポレオン1.台頭篇(佐藤賢一)

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全12巻の大作『小説フランス革命』は、「民主主義という高邁な理想を掲げた人たちが破綻していく物語」でした。著者が次に選んだ題材が『ナポレオン』であったのは必然なのでしょう。破綻した民主主義の代わりに強権政治を選ぶことは、歴史上何度も繰り返されていますが、その原点はナポレオンなのですから。第1巻「台頭篇」では、1769年にコルシカ島の小貴族の次男として生まれたナポレオンが、イタリア方面軍司令官として数々の戦争に歴史的勝利を収めるまでの躍進期が描かれます。 

 

古代からコルシカ島は、ギリシャフェニキア、ローマ、ピサ、ジェノヴァ、フランスの支配を受けてきました。独立こそが島民の悲願であり、フランス革命はその好機だったのです。その直前に陸軍幼年学校を経てパリ陸軍士官学校を卒業し、砲兵少尉に任官していたナポレオンは、コルシカに戻って独立運動の英雄パオリの親衛隊となる道を選びます。しかしその能力と熱意が疎まれて、失意の中で故郷を去らざるを得ませんでした。 

 

しかし革命真っただ中のフランスに戻ってから、彼の軍事才能は花開くのです。共和国の砲兵指揮官としてイギリス・スペイン連合軍から軍港トゥーロンを奪回。尊敬していたロベスピエール処刑後には一時的に逮捕されたものの、王党派の蜂起から総裁政府のバラスを守ったことで国内方面軍司令官に抜擢され、次いでイタリア方面軍司令官に転じてからは連戦連勝。サルディーニャ軍、オーストリア軍を撃破し続けてミラノに入場。ガルダ湖畔のリヴォリで決定的勝利を収めると、圧倒的に有利な条件でオーストリアと講和。英雄としてパリに凱旋するのです。 

 

小うるさい管理者タイプのベルティエ、猪突猛進型の騎兵隊長ミュラ、無鉄砲なジュノ、猛将ネイなど、後のナポレオン軍の中核となる人物たちとの出会いも描かれますが、ナポレオンの性格が象徴的に表れるのは、イタリア遠征直前に結婚した妻ジョゼフィーヌとの関係でしょう。彼女を勝利の女神と信じて、戦場から熱心に手紙を書き送り、イタリアへの来訪を懇願し続けるのですから。浪費癖には目をつむり、浮気の疑いは見ないふり。かなり情けない人間的な姿を見せるのですが、ジョゼフィーヌに宛てた手紙などを参考史料としているのですから、事実に近いのでしょう。 

 

2020/5