りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2019-04-01から1ヶ月間の記事一覧

2019/4 ゲームの王国(小川哲)

今月は「ディストピア小説の嚆矢」と言われる『一九八四年』をはじめとして、オーウェルの思想を発展させた作品を多く読みました。ウィンストン・スミスが最後には洗脳されてしまったように、真に恐れるべきは「監視社会」よりも「自意識の喪失」なのでしょ…

世界の中心で愛を叫んだけもの(ハーラン・エリスン)

20世紀後半に活躍した、奇想と情熱を併せ持つ著者の第1短編集です。原書は1969年に、邦訳は1973年に出版された作品ですが、現在でも色あせていません。 「世界の中心で愛を叫んだけもの」 世紀の殺人者が処刑を前にして叫んだのは「世界への愛」…

ハロー、アメリカ(J.G.バラード)

『22世紀のコロンブス』との邦題で1982年に出版された作品が、このたび原題にて新装再販されたのは、リドリー・スコット監督によって映画化が進められているからなのでしょう。 気候変動と石油枯渇と原発事故の結果、アメリカが放棄されてから100年…

動物農場(ジョージ・オーウェル)

1944年にオーウェルが著した本書は、全体主義やスターリン主義を痛烈に批判した寓話的な作品です。当時まだスターリンは現役どころか、第二次世界大戦に勝利した英雄としての評価も高く、オーウェルは本書の出版社を見つけるのに苦労したとのこと。何し…

パスティス(中島京子)

『南仏プロヴァンスの12か月』に出てくるパスティスというリキュールの語源は、アブサンが禁止された際の代用品という意味だそうです。芸術におけるパスティーシュと同じ言葉だとは知りませんでした。本書は円熟期に入った書き手による「思わずにやりとす…

ハーモニー(伊藤計劃)

「アメリカで発生した暴動をきっかけにして戦争とウィルスが広まった後」ということは、『虐殺器官』から繋がっている世界なのでしょう。「大災禍」と呼ばれる世界的混乱への反省から生まれたのが、「生府」が統治する、医療経済を核にした高度な福利厚生社…

ユートロニカのこちら側(小川哲)

2015年度の第3回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作です。2017年に出版された『ゲームの王国』が素晴らしい作品でしたので、こちらも読んでみました。 AIが管理する特別地区が試験的に誕生した近未来。そこは住民が個人情報への無制限アクセスを許…

神話のなかのヒメたち(産経新聞取材班)

神話時代から初期日本国家の誕生までを描いた『古事記』には、多くのヒメたちが登場します。それぞれの時代に応じて、天津神(アマツカミ)、地津神(クニツカミ)、海津神(ワタツミノカミ)、皇妃として登場するヒメたちを主役に据えた神話・伝承を、ヒメ…

マリー・アントワネットの首飾り(エリザベス・ハンド)

ヒラリー・スワンク主演で2006年に公開された映画のノヴェライズです。この女優、意志の力でやみくもにチャンスをつかもうとする女性としては適役ですが、没落フランス貴族女性というイメージは浮かばないのですが、どうだったのでしょう。 いわゆる「首…

ばけもの好む中将(瀬川貴次)

平安時代・王朝ミステリの主人公は、家柄もよく容姿端麗で完璧な貴公子である左近衛中将宣能。しかし彼には「ばけもの好き」という変わった趣味があったのです。しかしこういう人物の一人称では物語が膨らまないのは『シャーロック・ホームズ』以来の伝統で…

波(ソナーリ・デラニヤガラ)

著者はスリランカに生まれて、イギリスで博士号を取得して経済学者となり、英国人男性と結婚して2人の息子を授かった女性。しかし幸福だった彼女の生活は、たった一瞬で崩れ去ってしまいます。2004年12月26日、スマトラ沖で発生した巨大地震による…

一九八四年(ジョージ・オーウェル)

「全体主義が支配するディストピア社会の到来」を予言する作品として、多くの者から言及されながら、意外と読まれていない作品だそうです。実は私もなんとなく読んだ気になっていたひとりであり、今回が初読でした。 「ビッグ・ブラザー」が率いる党は、市民…

幻想短編集(堀川アサコ)

この世とあの世のあわいに存在する不思議な機関を次々に描いた「幻想シリーズ」のクロスオーバー的な短編集です。『幻想郵便局』で焚きあげられた「霊界からの手紙」を起点として起こる事件を、『幻想探偵社』のバイト学生・楠本ユカリが解いていくという構…

鷹の王(C・J・ボックス)

ワイオミングの猟区管理官、ジョー・ピケットを主人公とするシリーズの第11作では、ジョーの盟友である鷹匠ネイトの過去が明らかになっていきます。前作の『冷酷な丘』で、陸軍の特殊部隊に所属していたネイトが、退役して身を潜めて暮らしているにもかか…

義経と郷姫(篠綾子)

悲劇の名将・源義経の伴侶というと「静御前」の名が浮かんできますが、正妻は武蔵野国の河越氏の娘である「郷姫」という人物です。義経の逃避行に従い、最後には奥州衣川で義経とともに亡くなったとされる女性の姿が、本書の中で再現されています。 著者は郷…

ゲームの王国 下巻(小川哲)

ポル・ポトの隠し子とされるソリヤも、天賦の知性を有する農村出身のムイタックも、大量殺戮の時代を生き延びました。敗者には死が与えられる、人生というゲームで勝ち続けたのです。ソリヤはクメール・ルージュの幹部の座を捨てて親ベトナム派に、さらには…

ゲームの王国 上巻(小川哲)

内戦時代から近未来にかけての半世紀にわたるカンボジアを舞台にして、不思議な縁で結ばれた2人の少年少女の物語。主人公のひとりは、クメール・ルージュの首魁であったポル・ポトの隠し子とされるソリヤ。もうひとりはカンボジア西部の貧村に生まれた、天…

最初の悪い男(ミランダ・ジュライ)

短編集『いちばんここに似合う人』の著者による、はじめての長編は、やはり「孤独から逃れるために足掻く」主人公が中心に据えられています。 護身術エクササイズを広めるNPO団体に勤務している43歳で独身のシェリルは、理事である65歳のフィリップの…

空白の五マイル(角幡唯介)

早稲田大学探検部時代に知った「人跡未踏の地」ツアンポー峡谷の「空白の5マイル」に憧れて、大学卒業後の新聞社入社前と退職後の2度、文字通りの命を懸けた探検に挑んだ著者のノンフィクションです。2010年に出版された本書は、開高健ノンフィクショ…

京都伏見のあやかし甘味帖 2(柏てん)

理不尽な退職勧告と婚約者の浮気とで、29歳にして人生計画が木っ端微塵に砕け散った小薄れんげ。「そうだ、京都行こう」と思い立って伏見の民泊に長逗留しているところで、伏見稲荷の神徒という生まれたての子狐くろに懐かれて怪異と出会う一方で、民泊の…

クロストーク(コニー・ウィリス)

70歳を過ぎた著者の新作ですが、みずみずしい感性に満ちています。「テレパシー」とい手垢のついたテーマを、ソーシャル・メディアとの関連で新たに捉えなおしているのです。むやみやたらに飛び込んでくる他者の心の声など、悪意の匿名投稿と同様に迷惑極…

アメリカン・ウォー(オマル・エル=アッカド)

21世紀後半、地球温暖化による海面上昇の結果、アメリカでも沿岸地域が水没しつつある中で、化石燃料の使用を全面禁止する法律に反発した南部3州が独立を宣言。「第2次アメリカ南北戦争」が勃発した結果、アメリカは荒廃。カリフォルニアなどはメキシコ…

夜明けのウエディングドレス(玉岡かおる)

現在では結婚式の衣装というとウェデングドレスを思い浮かべる人が大半かと思いますが、洋装が和装を上回ったのは、意外なことに1993年のことだそうです。1981年のチャールズ皇太子とダイアナ妃の結婚式のTV中継がきっかけとなって、ドレス派が急…