りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

クロストーク(コニー・ウィリス)

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70歳を過ぎた著者の新作ですが、みずみずしい感性に満ちています。「テレパシー」とい手垢のついたテーマを、ソーシャル・メディアとの関連で新たに捉えなおしているのです。むやみやたらに飛び込んでくる他者の心の声など、悪意の匿名投稿と同様に迷惑極まりない代物でしかないのかもしれません。

主人公は、超巨大企業との競争にさらされているスマホ開発会社に勤務しているブリディ。恋人のエリート社員トレントから、恋人や夫婦が感情的な絆を共有できるという脳外科手術を受けようと提案をされたところから物語が始まります。しかし親族たちの反対を振り切って手術を受けたブリディの脳に飛び込んできたのは、無数の者たちの心の声の洪水だったのです。航路で断末魔の脳が発するSOSを」タイタニック」に例えた著者がテレパシーを描写すると、洪水や火事やゾンビのイメージになるのですね。

押しつぶされてしまいそうになった彼女を助けてくれたのは、実は先輩テレパスであったオタク系男子のCBでした。なんとか心の中に壁のイメージを築けるようになったブレディに、今度はトレントの声が聞こえ始めます。これは2人が真の愛情で繋がったということなのでしょうか。それとも彼には秘密の意図があったのでしょうか。そして最後には、意外な黒幕も登場。

噂好きの同僚やお節介な親族とのコミカルな会話が、突然シリアスな展開へと変貌していくテクニックは、相変わらず超一流。しかも重要な伏線やミスリードも仕込んでいるのですから、多少冗長であっても読み飛ばして構わないパートではありません。テレパシー能力が幸福をもたらさないことは、多くの先行作品も示していますが、コミュニケーション機能の発達も同様なのですね。主人公が勤める会社の新製品が、余計なコンタクトを遮断するスマホであることが、ラストのオチでした。

2019/4