りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

アメリカン・ウォー(オマル・エル=アッカド)

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21世紀後半、地球温暖化による海面上昇の結果、アメリカでも沿岸地域が水没しつつある中で、化石燃料の使用を全面禁止する法律に反発した南部3州が独立を宣言。「第2次アメリ南北戦争」が勃発した結果、アメリカは荒廃。カリフォルニアなどはメキシコ保護領となり、南部には難民があふれています。しかし悲劇はこれだけでは終わらなかったのです。

本書の主人公である南部の貧しい娘サラットは、一家で北部へ脱出しようとした父親を南部テロ組織に殺害され、避難先の難民キャンプを襲った北部民兵による大虐殺の際に母親と妹を失います。もはや誰も信じられなくなったサラットに接近してきたのは、彼女に自爆テロ攻撃をそそのかす謎の男。それを拒んでスナイパーとなり戦果をあげたものの、今度は戦犯収容所に拘留されて拷問を受け、ついには人格も崩壊。事実上の全面降伏をした南部と北部の和平が成立した日に、彼女は恐るべき生物兵器を身にまとって連邦首都となっているコロンバスへと向かうのですが・・。

北部が「青い州」で南部が「赤い州」と呼ばれているのは、既に消滅している民主党共和党のイメージカラーの名残ですね。大統一を果たして隆盛に向かっているイスラム帝国が、アメリカの内戦を煽ろうとして干渉してくるのは、「歴史の報復」としか言いようがありません。本書のテーマは「報復の普遍性」であると語る著者が描いたのは、不寛容がもたらす悲劇です。国家レベルでも、個人レベルでも、報復は繰り返されるのです。

2019/4