りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

一九八四年(ジョージ・オーウェル)

イメージ 1

全体主義が支配するディストピア社会の到来」を予言する作品として、多くの者から言及されながら、意外と読まれていない作品だそうです。実は私もなんとなく読んだ気になっていたひとりであり、今回が初読でした。

「ビッグ・ブラザー」が率いる党は、市民生活を監視しているだけではありません。「戦争は平和なり 自由は隷属なり 無知は力なり」のスローガンのもとで、人々を洗脳して隷属状態に置き続けることによって、体制の維持強化を図ることが自己目的化しているのです。党の無謬性を損なう過去を改変し、思考の単純化のために言語を簡素化し、党の思想を受け入れる二重思考を求め続け、るのは、すべてその目的のため。しかも世界を分割支配する三大大国も皆、似たり寄ったりの体制だというのですから、救いはありません。

本書の主人公であるウィンストン・スミスは、歴史の改竄業務に携わる真理省記録局に勤務する党員でありながら、完璧な屈従を強いる体制におぼろげな不満を抱いています。ある時、奔放な美女ジュリアと恋に落ち、さらには伝説的な反体制派の地下組織から接触を受けるのですが、これは彼に仕掛けられた罠だったのでした。はたして彼を待ち受けているのは、どのような末路なのでしょう。

想像しえる限りでの最も暗い結末が主人公を待ち受けているのですが、著者が未来に対して悲観的なだけではありません。トマス・ピンチョンの解説によると、巻末に記された附録「ニュースピークの諸原理」は過去形で書かれており、1984年以降の未来のどこかの時点で自由な体制が復活したことを暗示しているというのです。文学界を超えて社会的・文化的影響を世界中にもたらした、必読の作品です。

2019/4