悲劇の名将・源義経の伴侶というと「静御前」の名が浮かんできますが、正妻は武蔵野国の河越氏の娘である「郷姫」という人物です。義経の逃避行に従い、最後には奥州衣川で義経とともに亡くなったとされる女性の姿が、本書の中で再現されています。
著者は郷姫の人物造形に際して、義経の逆マザコン性格を利用しています。源義朝の側室として義経らを生み、平治の乱の際に息子らの命請いをする代償として平清盛の妾となった母親を、「運命に流された女性」として潔癖症の義経は嫌っていたというのです。もちろんこの箇所もフィクションですけれどね。
そして義経との政略結婚を受けた郷姫は、はじめは「流される女性」として遠ざけられていたものの、やがて彼女自身が芯の強さを発揮するに至って、義経との間に芯の愛情が生れたというのが本書を貫くラブロマンス。愛妾の静御前とも支えあって、良い関係を築いたとされますが、そのあたりはどうだったのでしょう。
著者が郷姫の生涯を彩るためにもうひとつ仕込んだのが、彼女を愛した2人の男性です。ひとりは実在の人物で、義経の配下となって名を挙げた畠山重忠。郷姫が生まれ育った川越に近い深谷の出身で、郷姫とは年齢的にも近いとのこと。もうひとりは架空の人物で、郷姫に献身的に尽くし続けた小次郎頼次という従者。やはり女性を輝かせるのは、恋する青年たちなのですね。
2019/4