りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

紙の月(角田光代)

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著者は、女性銀行員による横領事件の目的が「男性に貢ぐため」とされることに違和感を覚えて、本書を執筆しようと思ったそうです。そうではなくて「お金を介在してしか恋愛ができなかった」女性が、むしろ能動的に事件を起こしたという形に再構築された物語。

経済的に恵まれた家庭で育った梨花は、子供の頃から人目をひく「おろしたての石鹸のように」明るく美しい女性。短大卒業後にカード会社に就職し、後に結婚退職。子供はできず、銀行の営業職にパートタイマーとして、後にフルタイマーとして勤務。高齢者と話すのが得意で顧客にも人気がありました。

そんな梨花が、なぜ横領に走ったのでしょう。最初のふとしたきっかけや、横領を可能とする状況を生んだ偶然や、預金者の孫のために使うという言い訳や、すぐに返せると思いながらだんだん深みに嵌っていく様子などは、著者が巧みに描いてくれています。

むしろ本書の登場人物が皆どこかしら歪んであることが、気になりますね。しかも彼らは、単に「お金に左右されている」ということではないのです。

些細なことを恩着せがましく言う梨花の夫や、買い物依存症のキャリアウーマンや、異常に節約に励む元同級生の主婦や、夫の収入に不満を持つ妻など、本書の登場人物たちは皆「誰かを支配する」ことに喜びを感じるタイプの人間のように思えるのです。

間接的な支配は陰湿的になりやすいものですが、そこに金銭が絡むと一段と辛くなりますね。もちろん、犯罪者となるかどうかには、越え難い一線はあるのですが・・。

2015/1