りぼんの読書ノート

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帰蝶(諸田玲子)

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今年の大河ドラマ帰蝶役の女優が急遽交替になって話題になりましたが、彼女の生涯についてはほとんど記録に残っていないようです。これまでの歴史小説やドラマでも彼女の扱いはさまざまであり、創作者の想像力を掻き立てる存在なのでしょう。なんといっても、あの信長の正室なのですから。 

 

著者は帰蝶のことを、信長が唯一心を許せる存在であるとともに、信長に唯一もの申せる存在として描き出しました。拡大した織田家の奥をすべて取り仕切り、側室や息子や娘たちを支えていたというのです。帰蝶自身は出身地の岐阜城から動かず、小牧山城は吉乃、安土城はお鍋と、側室たちを出身地の城に配置して支配地の統治を支えさせたとのアイデアは、案外的を得ているようにも思えます。 

 

そして帰蝶は、本能寺の変のあとも生き延び、尼となって信長の菩提を弔い続けたとしています。ある資料に「信長公夫人が一周忌の法要を行なった」と記載されていることを基にした推察ですが、もちろん真偽のほどはわかりません。 

 

本書の前半は「彼女がどのようにしてそんな存在となり得たのか」に割かれています。「信長嫌い」を公言する著者は、帰蝶もはじめは夫の残虐さに怯える女性であったのであろうと推測。しかし彼女は、信長の家臣となった美濃衆にとっての希望の星であり、彼らのためにも逞しく生きる義務があったというのです。 

 

そしてそんな帰蝶を陰で支える存在として立入宗継という人物を配します。禁裏の御倉職という役職を担って朝廷と武家のパイプ役を務めていた京の豪商で、正親町天皇の使者として信長に会ったり、信長と本願寺との和睦に尽力したりした実在の人物なのですが、何故彼が帰蝶を支え続けたのかが、本書の読ませどころですね。 

 

個人的には、やはり大河ドラマの「黒田官兵衛」で、本能寺で信長とともに勇ましく戦った内田有紀さんのイメージが好みなのですが、川口春奈さんが演じる帰蝶はどのように描かれていくのでしょう。今年は6年ぶりに大河を見ようかと思います。 

 

2020/4