りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2015-06-01から1ヶ月間の記事一覧

2015/6 ゆうじょこう(村田喜代子)

今月は、村田喜代子さんの迫力ある2冊がワン・ツー・フィニッシュ。なんと『蕨野行』以来、10年ぶりです。「東雲のストライキ」として話題になった、明治期の遊女たちの決起を描いた『ゆうじょこう』の主人公の少女は、自伝的小説である『八幡炎炎記』の…

チェルノブイリから来た少年(オレスト・ステルマック)

「チェルノブイリ」という地名を含む重いタイトルなのに、軽い内容の作品でした。かなりご都合主義のエンタメ小説だったのです。 30代の美人ニューヨーカーのナディア・テスラは、ウクライナからの移民2世の元証券アナリスト。ウクライナでパルチザンの戦…

出雲の考古学と『出雲国風土記』(古代出雲王国の里推進協議会)

今年のGWに出雲大社を訪れた際に、隣接している「島根県立古代出雲歴史博物館」を見てきました。そこのメイン収蔵品が、荒神谷遺跡から出土した358本の銅剣、6個の銅鐸、16本の銅矛と、加茂岩倉遺跡から出土した39個の銅鐸だったのです。いずれも…

僕僕先生 零(仁木英之)

唐の玄宗皇帝の時代に、ニート青年の王弁君が美少女形の僕僕先生と旅をしながら成長していく本編の、「エピソード・ゼロ」にあたる物語です。ただ、中途半端な終わり方に思えますので、ひょっとすると「新シリーズ」のはじまりなのかもしれません。 天地がま…

お爺ちゃんと大砲(オタ・フィリップ)

1957年に、27歳の青年オタに届いた手紙には、第一次大戦中に死んだはずの祖母がイタリア人とともに写っていました。その時には何も語ってくれなかった祖父の死後、遺言で手稿を受け取ったオタは、祖父母の秘密を解明していきます。 第一次大戦前にオー…

風の丘(カルミネ・アバーテ)

イタリア最南端、長靴形の半島の土踏まずにあたる地域では、イタリア語とは微妙に異なるアルバレシュ語が話されているそうです。15世紀にオスマンに支配された、アルバニアから逃れてきた移民が住んだ地域だとのこと。しかしそこは、古代にギリシャ人が作…

銀翼のイカロス(池井戸潤)

「半沢直樹シリーズ第4弾」は、民主党の政権奪取直後の「JAL再生タスクフォース」を背景とした物語でした。 営業第二部次長となった半沢は、頭取命令によって、業績の悪化した帝国航空の再建を任されます。しかし、新政権のもとで発足したタスクフォース…

ミス・エルズワースと不機嫌な隣人(メアリ・ロビネット・コワル)

19世紀初めのイングランド。ジョージ4世が即位前に摂政を務めていた1810年代を代表する英文学作家といえば、ジェーン・オースティン。来年からは、10ポンド札の肖像画にもなるようです。 本書は、『高慢と偏見』を下敷きにして、「魔術」という添加…

孤高の人(新田次郎)

類まれなる脚力と状況判断力を備え、一般の社会人登山家の先駆的存在となった加藤文太郎は、なぜ「単独行」の道を歩んだのか。彼はなぜ、初めて組んだパーティで挑んだ厳冬の槍ヶ岳で消息を絶ったのか。昭和初期の登山家であった「加藤文太郎」の生涯を描い…

理系の子(ジュディ・ダットン)

毎年5月にアメリカで開催される「国際学生科学フェア」で、今年はじめて4組もの日本人高校生が優秀賞に入賞したとのこと。専門家を凌駕するハイレベルな研究も多く、過去の出場者からは7人ものノーベル受賞者が出ているすです。本書は、2009年度大会…

可愛いベイビー(五十嵐貴久)

『年下の男の子』と『ウエディング・ベル』に続いて、シリーズを締めくくる第3弾です。 大手メーカーの宣伝部課長で38歳独身の晶子は、14歳年下で出入り業者の派遣社員の児島君と、結婚にこぎつけることができるのでしょうか。それぞれ似合いの年頃の相…

百寺巡礼 第1巻 奈良(五木寛之)

このシリーズを順不同に読み始めたのは、訪問したばかり、あるいは訪問予定があった寺院を優先したせいです。あらためて「第1巻」から読むことにしました。「古寺、名刹のある場所には、不思議なエネルギーがある。それを体で感じ、新しい命を悠久の歴史に…

ゆうじょこう(村田喜代子)

明治36年、硫黄島から熊本の郭に売られてきた少女イチが知ったのは、別世界のように華やかな妓楼という地獄の存在だけではありませんでした。郭の学校「女紅場」で文字を習い、人間存在について思考をめぐらすことを覚えたのです。 イチらは、はじめて自分…

永遠の0(百田尚樹)

映画化もされて話題になった本なので、ずっと予約待ちで、今頃になって順番がまわってきました。その間、あちこちで極右的な暴言・放言を繰り返した著者の「政治的立場」が明らかになって、本書を読む意欲は失せてしまったのですが、とりあえず読みました。 …

八幡炎炎記(村田喜代子)

「製鉄の町・北九州八幡で敗戦の年に生まれ、事情あって祖父母を戸籍上の父母とする少女」といったら、著者自身のこと。主人公の少女ヒナ子の名字が、「貴田」という著者の旧姓であることも、後に明らかにされます。本書は著者の自伝的小説なのでした。 とは…

この世の涯てまで、よろしく(フレドゥン・キアンプール)

戦後の1949年にベルリンで死んだ青年ピアニストのアルトゥアが、50年後の1999年にハノーバーのカフェに蘇ったところから、物語が始まります。となると、読者の関心は3点。彼はどのように死んだのか。なぜ現代に蘇ったのか。そしてどのように役割…

ドールマン(テイラー・スティーヴンス)

前作『インフォメーショニスト』で、「22ヵ国語を操り、男にも娼婦にも姿を変え、殺人すらも厭わない情報収集家」として颯爽とデビューしたヒロイン、ヴァネッサ・マイケル・マンローに新たな試練が襲いかかります。しかも、その試練は、彼女の生い立ちに…

本朝金瓶梅 西国漫遊篇(林真理子)

中国の奇書『金瓶梅』を日本版にアレンジして、好色な大富豪の西門屋慶左衛門と、好色な悪女おきんを主人公とする3部シリーズの最終巻です。 悪事にびびって男の武器が役に立たなくなり、噂の強壮剤を入手すべく四国へと旅に出た慶左衛門でしたが、お伊勢参…

ペルディード・ストリート・ステーション(チャイナ・ミエヴィル)

「蒸気機関と魔術学が統べる都市国家ニュー・クロブゾン」の中心に位置するのが、巨大な「ペルディード・ストリート・ステーション」です。冒頭にある都市の地図は、まるで脳内の神経図のよう。 この都市に住む異端の科学者アイザックが、本書の主人公。大罪…

百寺巡礼 第8巻 山陰・山陽(五木寛之)

五木寛之さんが、TVの企画番組で全国100の古寺を巡礼した記録です。『第4巻 滋賀・東海』に次いで、第7巻を読んだのは、GWに山陰旅行をしたからです。鳥取県にある三佛寺と大山寺を訪れてきました。 「第71番 三佛寺 役行者が建てた断崖の堂宇を…

獣の奏者2.王獣編(上橋菜穂子

第2部に入って、物語は大きく動き出します。 傷ついた王獣の雛を救いたい一心で、献身的に治療にあたったエリンは、リランと名付けた雛と心を通わせることに成功。王獣の鳴き声に似せた竪琴の音を用いて、リランとの「会話」すら部分的にできるようになるの…

探偵ブロディの事件ファイル(ケイト・アトキンソン)

100年に及ぶ一族の愛憎の物語(『博物館の裏庭で』)や、魔術的な短編集(『世界が終わるわけではなく』)の著者によるミステリは、やはり一筋縄ではいきません。 元妻と娘マーリーとの関係と歯痛に悩む元警官の探偵ブロディにもちこまれた3件の依頼は、…

本朝金瓶梅 お伊勢篇(林真理子)

大富豪で女好き。「今助六」と評判の西門屋慶左衛門と、小悪党の亭主を殺害して慶左衛門の妾となった悪女おきんの物語。中国の奇書『金瓶梅』を日本版にアレンジした、全3作シリーズの第2部です。 『第1部』のラストで、元亭主の弟・武松(たけまつ)に命…