この都市に住む異端の科学者アイザックが、本書の主人公。大罪を犯して翼を奪われ、翼の復活を望む鳥人・ヤガレクの依頼に応えるために進めていた、飛翔理論の研究が、大災害を引き起こします。闇のブローカーから手に入れた謎の幼虫の正体は、知性を食糧として生態系の頂点に位置する夢蛾のスレイク・モスだったのです。
羽化して実験室を飛び出し、捕らわれていた同類の仲間を解き放った夢蛾たちは、住民を次々と襲い始めます。複数の勢力から追われる身となったアイザックは、ヤガレクとともに夢蛾を追って、奇妙な大都市を彷徨うというのが、メイン・ストーリー。
しかし、本書の魅力は、乱雑なまでに多様なサイドストーリー群にあるのでしょう。この奇妙な都市には、知性を持つ奇妙な種族が数多く棲息しているのです。まずアイザックの恋人が、身体は人間の女性だが頭部が甲虫のケプリという種族の芸術家なのは、いきなりドン引き。鳥人だって、「笑い飯」のネタにある「鳥人間」そのまま。
さらに、改造人間リメイド、両生類人、サボテン人間のカクタシー、人間に寄生する「左手」のハンドリンガー、廃棄された機械が生み出した人工知性体のカウンシル、悪魔、異次元の蜘蛛ウィーバーと続くのですから、ほとんどジャンク小説。
それでも、こんな狂乱の物語を、アイザックとリンの恋愛が行きついた地点と、鳥人ヤガレクが犯した「選択権強奪罪」の説明で落ち着かせるのですから、後の『都市と都市』や、ル=グィンが絶賛した『言語都市』などの名作群に至る萌芽は、既に見えています。
2015/6