りぼんの読書ノート

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百寺巡礼 第1巻 奈良(五木寛之)

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このシリーズを順不同に読み始めたのは、訪問したばかり、あるいは訪問予定があった寺院を優先したせいです。あらためて「第1巻」から読むことにしました。「古寺、名刹のある場所には、不思議なエネルギーがある。それを体で感じ、新しい命を悠久の歴史に思う」と綴る、名シリーズの始まりです。

「第1番 室生寺 女たちの思いを包みこむ寺」
百寺巡礼の1番に選んだのは、「女人高野」の別名を持つ室生寺です。国宝の五重塔は、最少ながら、法隆寺に次ぐ歴史を誇るもの。著者は、「小ささゆえに強く、強くないがために強い」という室生寺の不思議さを、女性のしなやかさに例えています。

「第2番 長谷寺 現世での幸せを祈る観音信仰」
長谷寺の登廊は、「隠国(こもりく)の泊瀬」と呼ばれる「冥界への入り口」であり、生と死が交わる聖地です。煩悩の数になぞらえて108間あると言われる登廊を登って行った先には、本尊の巨大な十一面観音像が待っています。

「第3番 薬師寺 時をスイングする二つの塔
奈良時代から残り「凍れる音楽」と例えられた東塔とペアになる西塔の再建に際しては、反対意見も多かったようです。再建された西塔を魅力的と評する著者は、「枯れた姿だけで判断してはいけない」と述べています。数百年後、両塔はどのようなバランスを見せてくれるのでしょうか。

「第4番 唐招提寺 鑑真の精神が未来へ受け継がれていく」
唐僧・鑑真のために建設された寺院です。著者は、鑑真和上座像の像を前にして、「あらゆる苦難を克服した精神と意志の強さがにじみ出た、精神の重さが迫る像」と述べています。彼は。「ダブル・アイデンティティを持っていた人物に違いない」とも。

「第5番 秋篠寺 市井にひっそりとある宝石のような寺」
有名な伎芸天は、シヴァ神像だそうです。瞑想的な表情と優雅な体型とで、堀辰雄をはじめとする多くの人を魅了してきた仏像です。著者もまた、そのひとり。

「第6番 法隆寺 聖徳太子への信仰の聖地」
梅原猛氏の『隠された十字架』で、聖徳太子の怨霊を鎮魂する寺との印象が強い寺院です。学問的な論証は済んでいませんが、著者は「法隆寺の建設をもって、聖徳太子の名誉回復がなされたのではないか」との感想を述べています。日本最初の世界遺産であり、文化財の宝庫です。

「第7番 中宮寺 半跏思惟像に自己を許されるひととき」
聖徳太子が母・間人皇后のために建立したとされる日本最古の尼寺です。ここの弥勒菩薩半跏像も、多くのファンを引き付けて魅了してきた仏像です。本堂は近年の再建ですが、すっきりした形状の美しい伽藍です。

「第8番 飛鳥寺 日本で最初の宗教戦争の舞台」
日本最古の大仏を擁する日本最古の寺は、仏教が大陸渡来であったことを思い出させてくれます。著者は、「私たちが日本的なカルチャ-だと思っているものは多いが、実はあらゆるものはグロ-バルであり、インタ-ナショナルなのではないか」と述べています。

「第9番 當麻寺 浄土への思いがつのる不思議な寺」
共に国宝である2つの三重塔を擁する、飛鳥時代創建の寺院です。この寺のすぐ西は、「生と死の結界」とされる二上山。山の向こうの河内は、もう浄土なのです。

「第10番 東大寺 日本が日本となるための大仏」
奈良時代の国家事業であった大仏と大仏殿は、とにかく巨大です。この寺を建てた当時の日本人は、壮大なスケールを通して、独立国家としての日本のアイデンティティを確保しようとしたのでしょうか。聖徳太子の野心を継承した、8世紀の日本人の意気込みが伝わってきます。

2015/6