りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ゆうじょこう(村田喜代子)

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明治36年、硫黄島から熊本の郭に売られてきた少女イチが知ったのは、別世界のように華やかな妓楼という地獄の存在だけではありませんでした。郭の学校「女紅場」で文字を習い、人間存在について思考をめぐらすことを覚えたのです。

イチらは、はじめて自分の名前を教わり、太陽や月など世界を知るべき言葉を少しずつ学んでいきます。地獄に堕ちてはじめて、島では望むべくもなかった教養を身につけ、自分の存在について考えるようになるとは皮肉なもの。それでも、日記がイチの生きがいになりました。彼女の素朴な文章が、なんと生き生きと綴られていること!

じょうり(草履) はくの わすれて いぬ ねこだと 言われました
あたいの おとさん おかさん しまでは はだしで あるいている
あたいは ここで じょうり はいている
じょうりを はいたら にんげん でしょか

そんなイチを暖かく見守る、元士族のお師匠さん・赤江鐵子と、女子力100%の花魁・東雲がいいですね。この2人が、女子にも学問を勧めながら、妾や芸妓を「人間以外のもの」として「交流することなく憐れむべし」と書いた福沢諭吉に対して、静かな怒りを燃やす場面などは、決闘シーンのようです。

しかし娼館は、やはり地獄です。廓から逃亡した少女。病で死んでいく娼妓。赤ん坊を産んで引退を余儀なくされた太夫。何より、娘に借金を負わせて追加で金を借りていく父親の存在! それでも外国からの圧力を受けて明治政府も改革に乗り出します。そして起こった、娼妓たちのストライキ! 

本書は「東雲のストライキ」を描いた作品だったのです。タイトルの「こう」は、「工」でも「校」でも「紅」でも「考」でも「行」でも良いのでしょう。人間として生きようとした無数の遊女たちのパワーに満ちた小説です。

2015/6