りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

永遠の0(百田尚樹)

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映画化もされて話題になった本なので、ずっと予約待ちで、今頃になって順番がまわってきました。その間、あちこちで極右的な暴言・放言を繰り返した著者の「政治的立場」が明らかになって、本書を読む意欲は失せてしまったのですが、とりあえず読みました。

特攻隊員として戦争末期に亡くなった祖父・宮部久蔵の生涯を調べ始めた、慶子と健太郎の姉妹が、「祖父の真実の姿」にたどりつく物語。かつての祖父の戦友たちを訪ね歩いて聞き出した祖父の評判は、「臆病者」から「英雄」まで、毀誉褒貶が激しいものでした。しかし2人は、戦時下の日本と軍隊の非人間的な風潮の中で、あくまで人間として生きようとした祖父の信念と心情に気づいていくのです。

本書もまた毀誉褒貶の激しい作品ですが、私としては、ひところ8月になるとよく作成されていた「太平洋戦争映画」と同じトーンの焼き直しという印象しか持てませんでした。すなわち、「戦死者への哀悼と鎮魂の思い」によって「戦死者を英雄視」する作品なんですね。日本を戦争へと引きずり込んだ軍国主義者や、軍上層部の官僚的保身主義への批判もまた、先行する作品群と同様です。

著者の政治的信条を切り離して読むならば「反戦小説」とも理解できる作品ではあるのですが、日本軍の「加害者的側面」に触れていない点では、先行する「太平洋戦争映画群(日中戦争映画ではない!)」と同様であり、同罪に思えます。

2015/6