りぼんの読書ノート

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お爺ちゃんと大砲(オタ・フィリップ)

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1957年に、27歳の青年オタに届いた手紙には、第一次大戦中に死んだはずの祖母がイタリア人とともに写っていました。その時には何も語ってくれなかった祖父の死後、遺言で手稿を受け取ったオタは、祖父母の秘密を解明していきます。

第一次大戦前にオーストリア領であったチェコで巨大大砲を開発していたペターク大尉(祖父)は、プリマドンナのマリアンヌ(祖母)に一目惚れして結婚。しかし、時代はこの若いカップルを放っておいてくれませんでした。イタリア軍スパイのカエターニが、巨大大砲の設計図を入手するために、バレエの興行師を装ってマリアンヌを誘惑したのです。

嫉妬したペタークは、カエターニに偽の設計図を手渡し、マリアンヌと自分の自殺を偽装したというのが、祖母の死の真相だったのですが、物語は奇妙な方向に進み始めます。イタリアに出国したマリアンヌは、結局カエターニと結婚し、ペタークは嫉妬に苦しみ続けるのですから。

別の名前を手に入れたペタークは、奥伊戦線のドロミテ山脈に巨大大砲を持ち込み、命令に従って2400mの高地に据え付けます。しかし、眼下のコルチナ・ダンペッツオをも破壊できる威力を備えながら、この巨砲は一度も発射されることはありませんでした。麓の教会でカエターニとマリアンヌが結婚式をあげた時ですら・・。

やがて、一度も発射されないままに時代遅れの武器となった大砲は、巡り巡ってロシアの博物館に展示されることになるのです。それは、戦争末期にはオーストリア軍からも信用されなくなったチェコの運命と、どことなく似ているようです。

メルヘンのように綴られた戦争も、結局は過酷なものでした。残されたのは「灰と塵と諦め」でしかなかったのです。著者は、「プラハの春」の頃に逮捕されて市民権を剥奪され、西ドイツに逃亡したという経歴を持つ、チェコ人のジャーナリストです。

2015/6