りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2014-02-01から1ヶ月間の記事一覧

2014/2 クコツキイの症例(リュドミラ・ウリツカヤ)

100年前の『青鞜』発刊と、50年前のパンナムによる日系二世スチュワーデス採用の間には、太平洋戦争という大きな断絶が横たわっていますし、そもそも別の国の出来事なのですが、それでも女性の社会進出の歩みが加速していることは感じられます。 1位に…

恋する空港-あぽやん2(新野剛志)

『あぽやん』の続編になります。 空港(airport)を略してAPO。旅行会社の空港要員として、出発直前のツアー客に対して水際であらゆるトラブルに対応する役割を担う者たちが「あぽやん」です。成田空港勤務2年めを迎えた主人公・遠藤慶太は、まだ成長過…

おいで、一緒に行こう(森絵都)

「福島原発20キロ圏内のペットレスキュー」の副題通り、避難勧告地域に残されたペットの救出に向かうボランティアの方たちに同行取材を行ったドキュメンタリーです。 動物たちを助けたい一心で被災地に集まってくる、大半が40代の女性たち。裕福でもなく…

ブルボンの封印(藤本ひとみ)

デュマの『ダルタニャン物語・第3部』の中心テーマでもあった「鉄仮面」の謎と陰謀の物語を、少女マリエールの成長譚として軽やかに綴りあげた、藤本さんのメジャー・デビュー作です。宝塚で舞台化もされました。 死の床についたルイ13世が枢機卿マザラン…

権力と栄光(グレアム・グリーン)

1930年代のメキシコ。辺境の貧しい州に樹立された共産主義革命政権は、教会を弾圧して、神父を捕え始めます。そんな中で、酒に溺れ、私生児までもうけてしまった破戒司祭、通称「ウィスキー坊主」は、州の中で唯一の神父となってしまっていたのです。 貧…

『青鞜』の冒険(森まゆみ)

平塚らいてうが中心となり、日本で初めて女性たちの手によって刊行された雑誌『青鞜』の歴史を追った作品です。「元始、女性は太陽であった」という有名な創刊の辞や、与謝野晶子が送った「山の動く日来る」という詩によって、「新しい女たち」というコンセ…

MM9 destruction(山本弘)

自然災害の一種として「怪獣災害」が存在する世界。有数の怪獣大国である日本では、気象庁内に設置された怪獣対策のスペシャリスト「特異生物対策部(気特対)」が、国土を守って駆けまわっています。 前作『MM9 invasion』で、地球侵略を企むチ…

緑色の濁ったお茶あるいは幸福の散歩道(山本昌代)

神足歩行術のための秘薬に関する薀蓄ではじまる本書は、一見すると「普通の家族の日常」をさりげなく描いた小説のようですが、読者を不安にさせる要素を多分に含んでいます。 「四肢機能全廃」という重い病を抱えながら、のびやかな性格の妹・鱈子。小説家に…

ミカドの淑女(林真理子)

明治40年2月。皇后の寵愛を一身に集めた希代の女官にして、学習院女学部長として華族子女の憧れの的だった才媛、下田歌子に対する醜聞記事の連載が、幸徳秋水の平民新聞で開始されます。それは、若死にした夫への非難、重臣たちへの娼婦的行為、金食い虫…

老人と宇宙(そら)5 戦いの虚空(ジョン・スコルジー)

宇宙に進出した人類は「コロニー連合」を形成して、非人類エイリアンたちと果てしない戦争を繰り広げていました。「コロニー連合」は、宇宙航空技術や殖民戦争の理由を地球に教えないまま、兵士と殖民者の供給基地として使っていたのです。その真相を明かし…

贋作と共に去りぬ(ヘイリー・リンド)

サンフランシスコを舞台にして、優秀な贋作画家の腕を持つアニー・キンケイドを探偵役とする「美術関係ライトミステリ」のシリーズ第1作です。 伝説の贋作師である祖父ジョルジュに仕込まれた腕前は封印し、疑似塗装師(フォーフィニッシャー)の仕事で生計…

ソハの地下水道(ロバート・マーシャル)

1943年。ナチスに占領されたポーランドのルヴフ。ユダヤ人狩りを逃れて地下の下水道へと逃げ込んだユダヤ人たちを匿ったのは、意外な男たちでした。彼らは下水修理のかたわら、空き家となったユダヤ人の家から金目のものを盗み出している小悪党のポーラ…

たぶんねこ(畠中恵)

『しゃばけシリーズ』も、第12作になります。シリアスなテーマに取り組んだ作品もありましたが、本書は「大江戸人情ミステリ」のスタイルに徹しています。珍しく寝込まなかった一太郎が病気にかからないための「5つの約束」が、いかに守られなかったかと…

クコツキイの症例(リュドミラ・ウリツカヤ)

帝政ロシアで医師の家系に生まれたパーヴェル・クコツキイには、患部を「透視」できるという不思議な能力が備わっていました。産婦人科医の道を選んだパーヴェルが、第二次世界大戦の最中に疎開先の病院で手術した患者のエレーナを妻に迎えたことから、「家…

死神の浮力(伊坂幸太郎)

『死神の精度』の主人公であった死神・千葉が帰ってきました。対象人物を7日間観察して「可」か「見送り」かを判定するのが死神の役割。 今回のターゲットは作家の山野辺遼。彼の幼い娘を殺害した本城という男に対して、法によらない復讐を計画しているので…

パン・アメリカン航空と日系二世スチュワーデス(クリスティン.R.ヤノ)

1991年に破産して消滅したものの、「パン・アメリカン航空」は時代を象徴する存在でした。アメリカの世界制覇の象徴であったと同時に、世界への憧れをかきたてたのが「パンナム」だったのです。日本では「兼高かおる世界の旅」や「アメリカ横断ウルトラ…

ボルジア家風雲録(アレクサンドル・デュマ)

『ダルタニャン物語』や『モンテ・クリスト伯』で有名なデュマには、史上の犯罪や怪事件を描いて人気を博した『歴史実話シリーズ』という作品があるそうです。本書や『メアリー・スチュアート』は、そこからのシングル・カットなのですね。 15世紀末のルネ…

「即興詩人」のイタリア(森まゆみ)

「ロオマに往きしことある人はピアツツア、バルベリイニを知りたるべし」の名調子で始まる森鴎外訳の『即興詩人』は、、長年に渡って日本人の西洋への憧憬を掻き立ててきた作品です。 著者もまた、画家の安野光雅さんとともに、「いったい私は『即興詩人』を…

即興詩人(森鴎外/アンデルセン)

童話作家となる前のアンデルセンが、イタリア旅行中の体験をもとに纏め上げた自伝的小説は、発表当時こそかなりの反響を呼んだとのことですが、今では日本以外では忘れられた作品になってしまったそうです。日本だけが例外となっている理由はもちろん、オリ…

ポーツマスの旗(吉村昭)

主人公は日本全権として日露戦争の講和会議に臨んだ外相・小村寿太郎ですが、優れた歴史小説がそうであるように、描かれているものは「時代」です。 旅順攻略、奉天会戦、日本海海戦の大勝利にもかかわらず、日本の戦争続行は困難になっていました。兵力も財…

ライアンの代価(トム・クランシー)

昨年亡くなった著者の作品には、「レーガン・ブッシュ時代の共和党」寄りの政治信条が色濃く出ているのですが、初期の「ジャック・ライアン・シリーズ」が面白いのも事実です。 本書は、大統領を辞したジャック・ライアンが、民主党政権下で停滞した対テロ活…