りぼんの読書ノート

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ミカドの淑女(林真理子)

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明治40年2月。皇后の寵愛を一身に集めた希代の女官にして、学習院女学部長として華族子女の憧れの的だった才媛、下田歌子に対する醜聞記事の連載が、幸徳秋水平民新聞で開始されます。それは、若死にした夫への非難、重臣たちへの娼婦的行為、金食い虫の弟の存在と借金苦の暴露、怪しい祈祷師との恋愛など、事実も噂も一緒くたにした容赦ない攻撃でした。平民新聞としては政府攻撃の一環だったのでしょうが、今なら人権問題ですね。

しかし下田歌子は、この事件によって学習院の退職を迫られることになりました。本書は、連載開始から辞職までの10ヶ月間を、視点人物を変えながら綴っていきます。明治天皇、柳の掌侍・小池道子、元生徒の猿橋睦子、伊藤博文大山捨松、医学博士・三島通良、祈祷師・飯野吉三郎、佐々木高行、小菊の権典侍・園祥子、乃木希典らは、下田歌子をどう見ていたのでしょう。著者の想像力が試される展開です。

最後は、判断を委ねられた学習院院長である乃木が、「学習院の重職には、女より男の方がふさわしいから、彼女を辞職させる。こう考えると何とすっきりすることであろうか」と男尊女卑思想を露骨にするのですが、この結論を見つけ出した時点で、本書は成功しています。乃木に「女たちは明治など少しも望んでいなかったのではないか」とまで言わせたのは、書きすぎではないかと思いますが・・。

白蓮れんれん女文士とともに、「女性伝記の三部作」と言われているようですが、近年のRURIKOも同系統の作品ですね。

2014/2