りぼんの読書ノート

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グッドバイ(朝井まかて)

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幕末にイギリス商人のオルトやグラバーと渡り合って日本茶葉輸出の先駆者となり、坂本龍馬海援隊岩崎弥太郎らを支援したことでも知られる、長崎の女傑・大浦慶の一代記です。

 

もともと長崎の油商であった大浦屋は、長崎大火による大損害や、それに続く父親の失踪などで大打撃を受けて家運が傾きかけていました。若くして女主人となったお希以(のちの慶)は、起死回生策として、無謀にも異国との茶葉交易に乗り出します。丸山の料亭を訪れていたオランダ人水夫のテキストルに託した嬉野茶の見本が、巨大な注文に結びついていくのです。この時お希以は26歳。しきたりに縛られた油商仲間の妨害や古手の番頭の反対を押し切って、無鉄砲な若い娘が鮮やかな成功を収めていく前半が本書の読ませどころ。

 

しかし維新の志士たちへの支援を経て明治維新を迎えると、横浜港の興隆や静岡茶の出現によって大浦屋のビジネスは先細っていくのです。そして、熊本藩士の遠山一也と当初は世話になったオランダ通辞の品川藤十郎によるオルト商会への煙草輸出詐欺事件の保証人となったことで破産。それでも細々と莫大な借金を完済し、横浜の船具工場の共同経営者となったりするのです。そして晩年にはアメリカのグラント大統領訪日の際して招待されたり、明治政府から功労賞を賜るなどの栄誉を受けるに至ります。

 

さすが幕末の三大女傑のひとりとして数えられるにふさわしい波乱万丈の生涯なのですが、小説としてはあまり面白くありませんでした。北斎の娘・お栄の屈託を描いた『眩(くらら)』や、明治期の詩人・中島歌子の激情を描いた『恋歌』や、井原西鶴を意外な側面から描いた『阿蘭陀西鶴』など、優れた伝記小説を綴った著者にしては、この人物の掘り下げ方が単調に過ぎると思えてしまったのです。

 

2020/12