りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2013-04-01から1ヶ月間の記事一覧

2013/4 フリーダム(ジョナサン・フランゼン)

後半は出張で不在となりますので、今月は22日までしかアップできません。ちょっと早いけれど、月間ベストを選んでしまいます。 1.フリーダム(ジョナサン・フランゼン) 一見幸せそうな普通の家庭が壊れていく・・。その根底にあるのは「自由」のなせる…

フリーダム(ジョナサン・フランゼン)

パティとウォルターのバーグランド夫妻を中心とする30年間の物語は、1980年代のレーガン政権時代から始まります。大学バスケットボールの花形選手だったパティは、リチャード・カッツ率いる学生バンドを聴きにいき、リチャードの親友だったウォルター…

ブラックボックス(篠田節子)

先端技術を利用した「完全制御型植物工場」というものが、日本の農業に革命を起こす切り札的な存在として脚光を浴びつつあります。いわく、安定供給、無農薬、高速生産、土地の高度利用、非熟練労働者による運営を可能とし、日本の食料自給率の向上や、今ま…

ぼくは覚えている(ジョー・ブレイナード)

「ぼくは覚えている」というフレーズで始まる短い回想を書き連ねた、詩集のような作品です。ここで綴られるのは、幼い頃の思い出、家族のこと、映画や芸術のこと、当時の有名人、ニューヨークに上京した時に感じたこと、成功への夢想と過去の後悔、ゲイだっ…

小説フランス革命9 ジャコバン派の独裁(佐藤賢一)

シリーズ第9作では、ルイ16世処刑後の混乱の中から革命独裁が立ちあがってくる過程が描かれます。 国王処刑に反応したイギリスからも宣戦布告を受け、欧州戦線でも敗色が濃くなり、ヴァンデ地方の内乱まで抱え込んだパリでは、革命が先鋭化していきます。…

ルパン傑作集9.ルパンの告白(モーリス・ルブラン)

『奇岩城』以前の「怪盗時代」に時間を戻して、スタイルも初期の作品に合わせたような短編集です。 「太陽のたわむれ」 ルパンが見つけた光の点滅暗号の送り主は、ルパンがかけつけた時には既に殺害されていました。この男が、妻に財産を持ち逃げされて話題…

ルパン傑作集8.八点鐘(モーリス・ルブラン)

レニーヌ公爵と名のって若く美しい婦人オルタンスの前に登場したルパンが、彼女を伴って乗り出した8つの冒険の物語。ルパンものの中でも「本格ミステリ」的な作品が並びますが、本書のルパンは何も奪わないようです。いや、最後にはオルタンスの愛を手に入…

等伯(安部竜太郎)

数年前に東博の「新春国宝展示」で「松林図」を見たときには、あまり魅力を感じませんでした。むしろ京都智積院に残る「祥雲寺障壁画」のほうが素晴らしいと思ったものです。どちらも国宝ですけれどね。 しかし桃山時代を代表する絵師・長谷川等伯の生涯を描…

オレたちバブル入行組(池井戸潤)

かつて銀行マンだった著者による「銀行内幕小説」ですが、タイトルから想像つくように軽い内容です。 「売手市場」であったバブル期に苦労もせずに大手銀行に入行した同期5人にとって、10数年後の「未来」は当時の夢とはかけ離れてしまっていました。最優…

UFOはもう来ない(山本弘)

著者いわく「日本でいちばん濃いUFO小説」とのこと。「本当に異星人のUFOが地球に来ていたら」という設定の「ファースト・コンタクト」ものですが、UFOに関する薀蓄が盛り込まれているだけでなく、異星人の既成イメージを破壊する作品。 月の裏側に…

スローモーション(佐藤多佳子)

なんだかよくわからない小説でした。女子高の1年生である柿本千佐が、不自然なほどにスローな動きをする変わり者の同級生・及川周子と理解しあう物語・・なのでしょうか? 父親はマジメな小学校教師、母親はお見合いでバツイチ男と結婚した心配性の専業主婦…

私小説 from left to right(水村美苗)

家族とともに12歳で渡米し、ボストンの大学院生として滞在20年目を向かえた「美苗」が、ニューヨークに住む姉「奈苗」との長電話で、異国に住む孤独を語り合います。 姉妹の家庭は既に崩壊しています。日本企業の米国駐在員から現地採用への切り替えてま…

逃げゆく物語の話(大森望編)

大森望さんの編んだ「ゼロ年代日本SFベスト集」ですが、もはや「SF」というジャンルは何を意味しているのかわからないほどに拡散しているようです。ファンタジーとのクロスオーバーは、初期のSFから顕著でしたが、今ではライトノベルとも純文学とも融…

藪の奥(平谷美樹)

後にトロイやミケーネを発掘したシュリーマンが、幕末の日本で宝探し? しかも探すのは奥州藤原氏が平泉に遺したといわれる財宝といいますから、奇想天外な物語。彼が慶応元年(1865年)に訪日したのは事実なんですけれどね。 横浜の商館には替え玉を残し、…

幻影の都市(ル=グィン)

著者初期の「ハイニッシュ・ユニバース・シリーズ」第3作です。 宇宙規模の始祖文明ハインの崩壊後、原始状態に戻ってしまった各惑星のひとつが「地球」でした。シングと呼ばれる存在に支配された地球の人々は、武器も通信手段も奪われ、中世のように孤立し…

ソフト・ターゲット(スティーヴン・ハンター)

アルジェリアのテロ事件の後では、本書は日本で発刊されなかったのではないでしょうか。大勢の人質を取ってに立て篭もったテロリスト集団に対して、スナイパーや警察が武力を用いて解決するのですから。もちろん人質の中にも多くの犠牲者が出ています。 「ス…

ルパン傑作集7.バーネット探偵社(モーリス・ルブラン)

『奇岩城』の事件の後、ルパンはジム・バーネットの偽名を用いて探偵業を営んでいました。事件で失った組織の立て直しでもしていたのでしょうか。 ところがこの探偵社。依頼人から「いっさい料金はいただきません」というのがウリなんです。ではルパンはどう…

続明暗(水村美苗)

漱石の死とともに未完に終わった『明暗』は、津田が新妻のお延をいつわって、かつての恋人清子に会おうと温泉に向かった所で絶筆となっています。本書はその「続編」を書ききろうとする極めて野心的な試みであり、まずはその勇気に拍手。 『明暗』のテーマは…

道草ハヤテ(米村圭伍)

『山彦ハヤテ』の続編です。陸奥国折笠藩の若藩主・三代川正春を救けて、身分違いの親友となった元・野生児のハヤテが、母親の犯した罪をつぐなうべく出家した正春の異母弟でイケメン僧侶の徳念と連れだって、江戸から故郷に向かいます。ハヤテの相棒で江戸…

山彦ハヤテ(米村圭伍)

歴史的な考証と奇想天外な発想を得意とする「現代の戯作者」米村さんによる新シリーズです。軽妙な語り口は相変わらず健在ですね。 台風で母親を亡くし、博打と酒に溺れた父親から捨てられ、入山禁止の天狗山でひとりで生き延びていた少年ハヤテは、山で行き…